内容説明
どこかなつかしい身近な日常からはるかな空想の時間へといざなう安房直子ファンタジー。
売れない絵かきの家を訪れた不思議な猫の魔法を描いた表題作「春の窓」をはじめ、
心を静かに整えてくれる十二編を収録。
大人の孤独や寂しさをやわらかく包み込み、
何度も読み返したくなる切なくも美しい極上の短編集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
nico🐬波待ち中
85
ちょっぴり不思議で、夢の中にいるような世界を描いた短編集。季節の変わり目にふと感じる寂しさも、ふんわり漂うそよ風や柔らかな陽射し、優しい木漏れ日に慰められる。寒くて薄暗かった冬を越えようやく訪れた春。それは自分で部屋の窓を開けなければ気付くことのできない嬉しい瞬間。森野屋の美味しいジャムもおばあさんの心を明るくする黄色いスカーフも、海から届くカワイイ電話もすてきな贈りものも、ゆきひら鍋で作った温かなりんごの甘煮も、全てが春の淡いまぼろし。寝る前に一話ずつ。夢の世界へと優しく誘ってくれる短編集だった。2022/04/14
佐島楓
67
この児童文学の著者のかたを存じ上げなかったけれど、ファンタジーという言葉に惹かれて手に取る。登場人物の心の傷と、それを癒す他者の愛というテーマが多く、胸に訴えかけてくる切なさがあった。本も一期一会、復刊に感謝申し上げたい。2022/02/23
tonpie
52
安房直子初読み。戦後目白の女子大で山室静の弟子になった童話作家にして主婦兼、魔法使いのおばさん。残念ながらお婆さんになる前に亡くなっている。語り口は、「子どもに対して」のように愛情深く、親切丁寧。しかし、何でも正直に話すわけではないということが肝心。日本の近代を支えてきた女性の多くは主婦にして母であった。そんな「普通の女」たちのはぐくんできた「切なさの美意識」が、ここに結晶している。甘さも酸っぱさも苦さも。↓2025/07/01
ちえ
44
安房直子さんの物語はどこか寂しくて怖い。それでいて温かい。既読もあったけれど殆どは初めて読むものだった。「あるジャム屋の話」「黄色いスカーフ」「春の窓」の優しさ、「日暮れの海の物語」「天窓のある家」は人間の自分勝手さ、ぞくっとする怖さ。「海からの贈り物」「星のおはじき」寂しい中のほっとする幸せ。表題作やジャム屋が出てくるカバーの絵も好き。2022/03/27
penguin-blue
39
子供の頃から大好きな「北風のくれたハンカチ」を含む安房直子さんの作品集。安房さんの描く登場人物は皆不器用で心優しく、心にさびしい思いを抱えている。物語で起こる小さな奇跡は決して王侯貴族やお金持ちへとつながるわけではないけれど、さびしい気持ちがだんだん温かく、世界が少しずつ明るい色合いへと変わるのを読者も一緒に共有して、優しい気持ちで読み終わることができる。その中では「天窓のある家」は異色。表題作は’画家の恋’という点では名曲「百万本のバラ」と一緒だが違いが面白い。そういえばあの歌の絵かきは絵描かないね。2022/07/28