内容説明
若者に向けて大拙博士が語る講演、随想集。「大地と宗教」「行脚の意義に就いて」など各篇を一貫して流れるのは、東洋思想の精髄である。人間疎外の進む現代への警世の書として、その思想は清新かつ深い。
(※本書は1987/6/4に発売し、2022/2/10に電子化をいたしました)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
roughfractus02
10
戦前・戦中の講演や講話を収めた本書(1943)は、日常の元にある否定の力を取り出し、光を当てると闇ができるという喩えでその力を人間の分別に求める。身体と大地の一体感を「正覚」とする著者は、禅者としてその肯定的で無分別の宇宙を語る。興味深いのは、身体を大地同様宇宙として解明する科学の理性が肯定される点だ。批判されるのは、科学を産業化する技術が身体と大地を分離し、大地を対象と見なす社会を作る点にある。本書は、戦争を引き起こす否定の力を技術でできた日常に見ながら、そのような生活にも肯定の力が潜在することを説く。2021/02/14
amanon
2
講話集ということで、これまで読んだ師の著者の中でもとりわけわかりやすかった。それはともかくとして、今更ながらに驚かされるのは、著者が昭和初期にロンドンで講演を行なっているという事実。この時代に日本人が物質面だけではなく、文化の面で世界的に何がしかの貢献をしたということに少なからず驚きを覚える。また、戦前にあってすでに物質社会への警告がなされているのにも拘らず、何の反省も無しに今日にまで至っている我々の性懲りの無さを思うと、ついため息が出てしまう。まさに百年一日というやつである。2012/01/31