内容説明
著者初の自伝的小説集。
因習的な故郷に、男性社会からのいわれなき侮蔑に、メディアの暴力に苦しめられた時に、
「わたし」はいつも正論を命綱に生き延びてきた――
7年ぶりに声を聞く母からの電話で父の危篤を知らされた小説家の「わたし」は、最期を看取るために、コロナ禍の鳥取に帰省する。
なぜ、わたしの家族は解体したのだろうか?
長年のわだかまりを抱えながら母を支えて父を弔う日々を通じて、わたしは母と父のあいだに確実にあった愛情に初めて気づく。
しかし、故郷には長くは留まれない。そう、ここは「りこうに生まれてしまった」少女にとっては、複雑で難しい、因習的な不文律に縛られた土地だ。
何度埋められても、理屈と正論を命綱になんとかして穴から這い上がった少女は東京に逃れ、そこで小説家になったのだ。
「文學界」掲載時から話題を呼んだ自伝的小説「少女を埋める」と、
発表後の激動の日々を描いた続篇「キメラ」、書き下ろし「夏の終わり」の3篇を収録。
近しい人間の死を経験したことのあるすべての読者の心にそっと語りかけると同時に、
「出ていけ、もしくは従え」と迫る理不尽な共同体に抗う「少女」たちに切実に寄り添う、希望の書。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
256
桜庭 一樹は、新作中心に読んでいる作家です。著者初の自伝的私小説、興味深く読みました。 https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163914909 本書を巡り、論争があったとは知りませんでした。 https://gendai.ismedia.jp/articles/-/87173 昔と違って、作家が私小説を書くのも、リスクかも知れません。2022/02/18
青乃108号
206
タイトルに惹かれ読み始める。病に伏した父がいよいよ危ないと7年振りに東京から故郷に帰った作家が父の最期を看取る物語。コロナ禍の事、オンラインで画面越しに必死に父に呼び掛ける作家。そして後半の「キメラ」である。新聞に掲載された「少女を埋める」の書評に、小説では書かれていない「母が父を介護中に虐待していた」との記述があり、事実と違うと闘いを始める作家。小説は読者に読まれて初めて完成するものであるが作者と読者の間で完全な一致はあり得ずどこかで必ず齟齬は生まれる。それは仕方がない事であり、そういうものなんだな。 2024/01/16
のぶ
146
「少女を埋める」「キメラ」「夏の終わり」の3篇が収録されている。「少女を埋める」だが、帯には自伝的小説と記されているが、小説には見えず、日記風のエッセイとしか感じられなかった。母からの電話で父の危篤を知らされた小説家の「わたし」は、最期を看取るために、鳥取に帰省する。そのあたりの事が書かれているのだが、次の「キメラ」に「少女を埋める」に関してのあるトラブルの経緯について述べられていて、自分が読み間違えたのか疑心暗鬼になってきた。いずれにせよ顛末は自分で解けないので、他の方の感想を参照したい。2022/02/11
モルク
139
20年闘病した父が危篤との連絡を受け7年ぶりに故郷を訪れた主人公。そして父の死、母との関係などを描いた自伝的小説である表題作。タイトルのように物騒なものではない。「キメラ」は朝日新聞に載った「少女を埋める」のc氏の書評を巡る論争を描き「夏の終わり」はその後である。新聞の書評は本を選ぶ時の大きな指標となり、それが書いてもないことを勝手に解釈されていたら…ましてや地方ではNHKと朝日新聞は絶対である。桜庭さんが母の汚名返上にc氏のみならず朝日新聞と対峙したことは立派。母からの伝言「昨日はありがとう」で泣けた。2022/09/19
たいぱぱ
97
最初に戸惑い、ページを捲る度にと息苦しさが増してくる。こんな騒動が起きていたなんて全く知らなかった…。大好きな父を看取る為に、確執のある母の待つ鳥取に7年ぶりに戻る桜庭さんを描く自叙伝「少女を埋める」。桜庭作品にはこんな背景が…と心が痛むと同時にこんなに赤裸々に書いて大丈夫かと心配になる。書くことが心のデトックスになったんでしょう。朝日新聞の文芸時評に「少女を埋める」の間違ったあらすじを載せられたことに抗議した顛末を描く「キメラ」「夏の終わり」。桜庭さんは悪くない。苦しいだろうけど僕は新作待ってますよ。2022/03/22