内容説明
体操界期待の新星・結城幸市――高校の全日本選手権の鉄棒で優勝し、順風満帆だった彼の青春を、度重なる不運が襲う。幸市の練習中にばかり相次ぐ器具の故障。さらに妹の似奈が転落事故で植物状態に陥ってしまう。一度は酷く心を乱す幸市だが、家族の不安を払うため、そして自分に期待を寄せてきた似奈への「誓い」を胸に、幸市は世界選手権に挑む。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ちょこまーぶる
55
最後はドキッとした一冊でした。体操一家に不運が続いて、その真相の究明と運命のように何にかに疾走していく幸市の心の動きに付き合って行くことに辛さも感じながら読み進めました。そして、彼のような不運にあった時は誰でもが身近な人達も信じることができなくなってしまうであろうが、妹の不運が歯車の組み合わせが何回もズレた際に起こったと分かった時から彼の心は整理がつかなくなってしまった結果としての人生のラストに進んだことが正しい選択なのか?と思い続けています。難しい難題を突き付けられたような本だと思います。2022/12/18
ユメ
44
物語の冒頭は、体操界のホープ幸市の、鉄棒で宙を舞う喜びに満ちていた。ところが彼はそこからどん底に転落していくことになる。読んでいて苦しい展開だったが、辻堂さんの筆力が読む手を止めさせない。更に、時折挿入される中年男性のパートが不安を煽る。男性の正体が明らかになったときには驚き、悲哀、安堵が複雑に入り混じった感情に包まれた。登場人物たちの繊細な心理が丁寧に描かれていて、その積み重ねの果てにこの結末があったのだなと思う。ラストシーンで、幸市は、高く飛んだ。その軌跡が目に焼きついて離れない。2017/04/30
Junichi Yamaguchi
33
『昨日の今頃』… 沢山の衝撃のラストと銘打った作品を読んだが、その中でもこの作品は印象に残りそうだ。 彼が高く飛んだ理由を思い返すたびに湧き上がる思いは熱く、冷たい。。2017/06/01
wanichan
31
小さな勘違いに嫉妬や保身が絡み合って、悲劇は起きる。その小さな気の緩みは体操の世界では大きな事故につながる。体操界の期待の新人の幸一の妹が階段から転落して重体になる。妹の事故のミステリーもあり、語り手が誰なのかも分からない点は楽しめたが、辛いことばかりで、読後はあまり良くない。2017/10/13
さくさく
13
体操会期待の新鋭としてコーチの両親やクラブのメンバーに支えられて練習を重ねる結城幸市。オリンピック出場に向けてラストスパートをかける中、妹の似奈が階段から転げ落ちて重篤な状態になり、そこから負の連鎖が始まる。青春小説だと思って読み始めたら最後はガチガチのミステリーに。誰が似奈を追い詰めたのか、そしてこの語り手の「私」とは一体誰なのか。何一つの不安もなく体操に向き合える環境があることが逆に悲劇を引き起こす伏線になっていたとは思いもしない。このミス作品だけあって見事な構成難易度だった。2022/07/10