内容説明
自動機械の自立性向上に特化された近未来の軍事的進歩は、効果的かつ高価になり、その状況を解決する方法として人類は軍備をそっくり月へ移すことを考案、地球非軍事化と月軍事化の計画が承認される。こうして軍拡競争をAI任せにした人類であったが、立入禁止ゾーンとなった月面で兵器の進化がその後どうなっているのか皆目わからない。月の無人軍が地球を攻撃するのでは? 恐怖と混乱に駆られパニックに陥った人類の声を受けて月に送られた偵察機は、月面に潜ってしまったかのように、一台も帰還することがなかったばかりか、何の連絡も映像も送ってこなかった。かくて泰平ヨンに白羽の矢が立ち、月に向けて極秘の偵察に赴くが、例によってとんでもないトラブルに巻き込まれる羽目に……《事の発端から話した方がいいだろう。その発端がどうだったか私は知らない、というのは別の話。なぜなら私は主に右大脳半球で記憶しなくてはならなかったのに、右半球への通路が遮断されていて、考えることができないからだ》レムの最後から二番目の小説にして、〈泰平ヨン〉シリーズ最終話の待望の邦訳。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
えか
21
ストーリーは大まかに二つに分かれる。ひとつめは我らが泰平ヨンが何者かにより右脳と左脳を断ち切られ、二つの自我に悩まされる。というもの。第一章では右半身と左半身の闘いが、まるでスラップスティック喜劇のように繰り広げられる。文字通りの「分裂症」だ。ふたつめは『砂漠の惑星』やラッカーの『ソフトウェア』三部作のような月で自己進化する機会生命体の話。調査にあたった泰平ヨンの右脳がどうやらその謎の鍵を握っているらしいのだが、はたして如何に…2022/09/15
いきもの
7
兵器の進化と自己同一性をテーマとして書かれた泰平ヨンシリーズ最終作。シリーズとはいえ、ほぼ独立した作品。兵器進化のテーマはレムの他の作品でも共通したアイディアがみられるのと、自己同一性についてはやや掘り下げが足りない感じがしたので、やや期待はずれ。それでも面白いけど。2023/05/10
たか
6
軍拡競争を月に移植してAI任せになった未来。様子の知れない月が地球に攻めてくるのではとの不安が募り泰平ヨンが調査派遣されるが、帰ってきたヨンはカロトミー(脳梁切断)により記憶と人格が分裂してしまっていた。左脳優位のヨンも知り得ない右脳側の月の記憶を巡って諜報戦が繰り広げられる。『航星日誌』に比べると長編らしい重厚さはあるものの、右脳の反逆と和解のドラマ、ヨンを取り巻く怪しい人物たちのドタバタは笑える。兵器進化の描写や、タラントガ教授の洞察、ラストの描写などは本物の予言者ではないかと思ってしまう鋭さ。2022/08/15
huchang
5
スラップスティックという言葉が真っ先に浮かぶ冒頭。脳梁切断手術を知らんうちに受けてたらしい主人公が、右脳と左脳が独立してはたらくために、同一人物なのに全く違う言動・認知的特徴を持ってしまい、しかもそれを「倍増」などと名付けられてるあたり、何度か吹き出しそうになったのだが、そこはレム先生。しだいに連絡が遮断された覇権を争う集団というものは、いったいどないなってしまうんかという人類普遍ともいうべき展開に発展する。今からでも映画になれへんかな…無理かな。2024/08/07
maqiso
5
カロトミーと月のミッションが訳のわからないまま進む中に、兵器やアンドロイドが進化していった話が挟まるの良い。遠隔人を操作する場面は臨場感があって面白い。2022/01/03
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