内容説明
日本海のはずれ、朝鮮との国境に浮か養生島。 かつては漁業で栄えていた離島で暮らす三人の老女のうち、ナオの死で、いまはイオとソメ子のふたりが取り残されている。 九十二歳でひとり暮らしのイオの娘、ウメ子も六十五歳になった。 イオは海女をなりわいとして、八十五歳までアワビを獲るほど、心身ともに丈夫ではあるけれど、娘のウメ子としては心配でならない。 二十五年前の海難事故で命を落とした夫を供養するイオとソメ子。 異国からの密漁船による侵略や、地球温暖化など、不吉な未来を予感しながら、泰然と暮らしを守り続ける老女たち。 そんな島に、おそろしい台風が近づいてきて……。 名作映画「八月の鯨」のように、海辺での厳しい暮らしとシンプルに生きようとする姿に胸を打たれる。 いまの時代こそ、こんな世界に浸りたくなる。谷崎潤一郎賞受賞作品。解説・桐野夏生
※この電子書籍は2019年3月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
るい
38
二人きりで暖かな島で暮らす88歳と92歳の女性たち。 ふうわりと漂うような物語にいつしか境界線が曖昧になっていく。 老いと若さ、生と死、苦しみと安らぎ、人生は水平線のよう。交わることはないけれどそれはすぐ側にピタリとくっついて対になっている。魚か鳥か。それとも人か。 不思議な香りに気持ちいい風が吹くようなお話だった。2022/04/12
Emi
28
島にはその島特有の空気がある気がします。潮と陽にさらされて身体も心もどこかカラリと乾いたような2人のおばあさんは女性というより島そのものみたいでした。娘のウミ子や役場の鴫といった「普通の人」とは違う世界に生きてるような2人がどこかユーモラスに綴られています。国の端の島々への他国からの侵蝕やインフラの経費などの現実的な話もあるのにどこか少し夢の国みたいな不思議な空気もあるお話でした。畑で鳥になる踊りを踊る二人はいつか枯れて軽くなって鳥になるのかもしれません。2022/03/18
Y.yamabuki
20
イオさん92歳とソメ子さん 88歳、孤島で二人不便を嘆く訳でも、将来を心配する訳でもなく淡々と暮らす。あわいの中で生きているようで、どこか現実離れしている。片や島の周辺には中国の密漁船が来る現実があり、若い役場の鴫さんが見回る。イオを心配して連れて帰ろうと島に戻った娘のウミ子との会話に、ぐっと現実に引き戻される。けれど彼女も暫く島にいる内に何だかあわいの世界に近付いてるような。海と空、鳥と魚の世界に。「海と空の大きな世界を描くために、豆粒みたいな年寄りの影を二つチョコンと置いた」(解説)作者の言葉が面白い2022/05/17
桜もち 太郎
14
漁業で栄えていた島が過疎化により、老女二人だけになってしまった。その養生島で暮らす92歳のイオさんと友人の88歳のソメさんの物語。人が生きていくには人につくのではなく、土地につくというイオさんの言葉。イオさんの娘は母親をと本土で暮らすよう説得に来たが、その気持ちもやがて変化していく。島で生きる老女たちは淡々と暮らしているように見えて、死に向かう準備をしているよ言うな感じがした。その一つが老女たちが舞う「鳥踊り」だ。人は死ぬと魂は鳥になるという。遭難し死んでいった夫たちも鳥になったという。→2022/08/13
ピロ子
9
アジサシと二人の老婆が舞う場面は圧巻。「人間は人に寄り付いて暮らすものではねえて。長年ずっと土地に寄り付いて生きてきたもんじゃ。」と先祖の墓を守りその土地で暮らす。先祖の墓か… よくわかる。そんな立場の人間としては。 2022/06/15
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