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内容説明
「科学は、自然に対する驚異の念と愛情の感じとから出発する」(「簪を挿した蛇」)。雪の結晶の研究や人工雪の製作で足跡を残した物理学者の中谷宇吉郎は、寺田寅彦と並ぶ名随筆家として知られている。身近な生活の中にあるさまざまな話題から、科学的な見方とはどのようなものかを説いた作品を厳選。代表作の「雪を作る話」「雪雑記」「ツンドラへの旅」「天地創造の話」「千里眼その他」「立春の卵」など17篇を収録。解説・佐倉統
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
へくとぱすかる
62
人工雪で知られた物理学者のエッセイ。ロゲルギスト同人のような、現象の追求ではなく、人工雪以外は低温科学の研究途上のできごとを描いたものが目立つ。時代のせいか、サハリンや中国東北部の記述も。北大の先生だから寒冷地に縁が深い人である。のちに昭和新山の名がつく火山活動を、天地創造と表したのは、今の西之島の研究と同じ感覚だろう。注目したいのは明治の超能力事件への言及で、あっても「何も問題はない」と言い切る。それを説明できる学問を組み立てればよいとのこと。しかし基本的にニセ科学にはきびしい点は、さすがに科学的だ。2022/01/02
さとみん
11
中谷宇吉郎という名前を知ったのは学生の頃、教科書に載っていた雪についての文章の著者として記憶していた。詳細な内容は忘れてしまったが柔らかい文章の印象だけが心に残っていて、機会があればもう一度読みたいと思っていた。私には氏の物理学者としての評価は分からないが、この一冊を読んでみて内容に古さは感じなかった。むしろ『千里眼その他』『立春の卵』には似たような事は今もあると苦笑いした。『雪を作る話』『雪雑記』は研究を楽しんでいる様子と試行錯誤の面白さが伝わってきて微笑ましい。2022/02/17
Nonberg
8
さしだす手のひらに、サラサラ、空から舞い落ちる雪のいろいろな結晶を、あかずながめていた冬の朝の記憶はいまも鮮やかです。「雪を作る話 (S11)」「雪雑記 (S12)」は低温室で六華の結晶を再現するお話で試行錯誤や思わぬアイデアなど探求の示唆をあたえます。「ツンドラへの旅 (S16)」「永久凍土地帯 (S20)」には、荒涼とした風景のなかにもその土地の植生と色彩の変化が美しく描かれ、気候変動によって姿をどう変えてゆくのか考えさせられます。これらの旅は、戦時下「凍上」防止策の調査であったことも語られています。2023/04/02
西澤 隆
8
彼の本職、雪をめぐる前半の随筆は淡々と楽しめるもの。科学者はいろんなものについてこんな切り口で見るのだなあ。一方、今の時代にもとても示唆深いと思えるのは終盤の「千里眼」「立春に卵が立つ」といった騒動へ言及したもの。科学より感情が走ってしまう社会の動きへの対策は「各人が中学程度の科学を十分に把握」するのが早道だと言いながらも「もっともほんとうはそれが一番むつかしいことなのである」とあるのはコロナ禍な今とかわらない。WW2末期の軍部がすがる疑似科学への異議申し立てとしての千里眼騒動への文章。この人、硬派だなあ2022/10/12
心士二人
4
物理学者中谷宇吉郎。最初の「九谷焼」は大正13年に書かれていてそんな時代のエッセイが読めて面白い。自然描写、色の表現がとても美しい。「人類にも盲点があることは、あまり人は知らないようである。 人類の歴史が、そういう瑣細な盲点のために著しく左右されるようなこともありそうである。」 加賀に中谷宇吉郎雪の科学館があるとの事、ぜひ行ってみたい。2022/01/31