内容説明
1997年から1999年、オスロ・仙台と東京間で交わされた、『遠くからの声』。東日本大震災直後の喪失感の中で文学・人生・世紀末に思いを巡らせた『言葉の兆し』。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐島楓
68
「私」を完全に離れて小説を書くことはできるのか、という問いが私のなかにずっとある。この往復書簡はそれに対してのひとつの答えを提示してくださっているように思う。時代や環境の推移、降りかかってくる病による苦痛、とどめのように起こる東日本大震災。1997年から始まり、震災を機に十数年のときを隔てて再開されたやり取りに、変わらざるを得ないもの、不変のものを感じた。ああ、これが作家の仕事なのか。2022/01/02
RIKO
1
図書館で借りてきましたが、読み進めるうちに、これは手元に置いて、何度も読み返すものと思い、買い直しました。 古井氏と佐伯氏の書くところを理解できていないところもあるけれど、交わされた内容と言葉をかみしめたいと思いました。2022/05/02
白いハエ
0
古井氏と佐伯氏では親子ほどの年齢差があるはずなのに、生来のものと思えるほどの親密さに驚く。静謐に世事を見つめ、端正にいまを言葉に起こし、書簡として交わし合う。往復する。その「間」は頁によって隔たれるが、しかし、時の流れと(日本とノルウェーという)地理的距離が、しかと感じられる。この「空間」性は往復書簡でしか味わえない旨味に思える。同時に二十世紀末、バブル崩落や公害、社会的事件から、3.11まで、あくまで言葉と思弁によって対象化していく語りは、解説にある通りの「共同体」として特異な「空間」として映った。2024/08/19