内容説明
二・二六事件前夜。判で押したような平凡な日常を送る平凡な一銀行員が、自分と周囲の小さな行き違いの果てに一線を踏み越えてしまう……。リアルな描写の積み重ねが予測不能のサスペンスを生む『風のない日々』に、戦後の復員兵による財閥令嬢誘拐事件を描いた『少女』併録。〈同時代批評〉井上ひさし
〈解説〉川本三郎
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
55
何時までも続くと思っていた、代り映えのない生活。しかし、些細な陥穽により、突き崩される。日常とは薄氷の上に立つことで成り立つものだと知らしめる「風のない日々」に震撼するしかなかった。ここで綴られるのは余りにも平凡な日常だ。だが、「砂の器」同様に当時の世情や風俗を細やかに描く事で心情はより一層、読者に肉薄してくる効果となっている。特にお客さんをもてなすのに器はない、食堂の出前で済ませたが故の見栄えの低さと主人の他人に対する無頓着さ、しみったれ感の醸し方は身悶えする位、絶妙なのだ。2022/04/15
ふみえ
5
昭和はそんなに昔ではないのに、生活様式から価値観まで変わったわ。2作とも地味に淡々と物語は進み退屈な感じもするが、これが生活ってもの。実際にあった事件を元にしてるのね。2021/10/30
yoyogi kazuo
3
昭和十年から十一年にかけての世相を背景に一組の夫婦の日常生活の綿密な描写を通して最終的なカタストロフに至る。徳田秋声ばりの地を這うようなリアリズム。解説で表題作に通じる作品として志賀直哉「剃刀」を挙げているが、「少女」には同じく志賀直哉「子を盗む話」との共通性を感じる。2022/01/23
フリウリ
1
「風のない日々」の舞台は昭和10年前後の東京、「少女」は昭和21年の関東および中日本だが、前者は1980年、後者は1985年に発表されている。豊かになった戦後社会から、「暗い時代」を振り返っている。特に前者では、ストーリーの途中で時折、当時の世相がナレーションのように説明されていて、その構成は「昭和晩年の風情」を想起させる。松本清張が非常に読まれていた時代である。「暗い時代」を経験した人々の多くは、まだ生きていた。悲惨だった過去を書きたい、読みたい(そして安心したい)という欲望は、大きかったと思われる。62022/12/11
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