内容説明
【第63回日本推理作家協会賞〈評論その他の部門〉賞受賞作】英文学史上、後世に多大な影響を与えた古典である『不思議の国のアリス』における、一人称の主体の解体と構築を論じた「ルイス・キャロル論」から始まり、エラリー・クイーン、ディクスン・カー、ヴァン・ダインなど黄金期の諸作家の論考、更にはヒュー・コンウェーやメアリ・ブラッドン、ファーガス・ヒュームなど知る人ぞ知る作家に光をあてた長年の研究を網羅する、著者入魂の一冊。また圧巻の、黒岩涙香の翻案したミステリ作品の原典探究も収録した力作評論集。/【目次】序文/第一部 第一章 ルイス・キャロル論――アリスの「私」探しの旅/第二章 『妾の罪』における叙述トリックの位相/第三章 語られざるバーサ・M・クレーのミステリ/第四章 近代探偵小説の黎明を告げたヒュー・コンウェー/第五章 貸本小説の女王、メアリ・ブラッドン/第二部 第六章 ウィリアムスン『灰色の女』と黒岩涙香『幽霊塔』をめぐって/第七章 ファーガス・ヒューム論――19世紀と20世紀の狭間に埋もれた作家/第八章 二人のM・C――神智学ムーブメントと女性心霊主義作家の活躍/第九章 黄金期の諸作家/第十章 密室講義の系譜/第十一章 クイーン論の断章/引用・参考文献/人名索引
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
志村真幸
2
「ルイス・キャロル論-アリスの「私」探しの旅」」「『妾の罪』における叙述トリックの位相」「知られざるバーサ・M・クレーのミステリ」「ウィリアムスン『灰色の女』と黒岩涙香『幽霊塔』をめぐって」「ファーガス・ヒューム論-19世紀と20世紀の狭間に埋もれた作家」「密室講義の系譜」「クイーン論の断章」といった章が並んでいる。 19世紀~黄金派のミステリや、明治の翻案小説を、英文学研究的な手法で解き明かそうとしている。一般に知られているミステリを、もっと広い視野から眺めることができ、おもしろい。 2019/04/12
SEI
1
作家・評論家の小森健太朗による2009年の評論集。初出時はともかく、テーマとしては従来評論家達に蔑視されていたドイル・黄金期以前の黎明期英国推理小説に注目したもの。その割にはルイス・キャロル論で始まっているが、『アリス』における、めちゃくちゃな世界に置かれる→それまで確固とした世界を基盤に成り立っていた自己の〈解体〉という視点は、叙述・人称ミステリの問題につながるものであり、ある意味で「はじまり」とも言えるのだ。 続いて日本初期の翻案家涙香と、彼が材をとった黎明期作家達を紹介していく。知らない作家 2017/08/17
野田有
1
原典探しから翻案との比較、ミステリ読者としての先駆性にと涙香を語り、ミステリ史に埋もれた作家達を掘り起こす。黄金時代作家はやや分量的に物足りない面もあるのだけど、クリスティの誤訳ネタやヴァンダインの経歴詐称ネタなどが面白い。2010/09/06
katta
1
黒岩涙香が翻訳した19世紀にイギリスで活躍した作家たちを中心に、時代背景や文化などを考察した労作。2010/02/10
あんすこむたん
0
「ルイス・キャロル」から「密室講義」や「クイーン論」まで。興味深い内容。「アガサクリスティ論」では翻訳の大事さが分かります。2013/01/26