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内容説明
野生のゴリラを知ることは、ヒトが何者か、自らを知ること――アフリカの熱帯雨林でゴリラと暮らした霊長類学者と、その言葉なき世界の気配を感じ取ろうとする小説家。京都大学の山極研究室で、野生のサルやシカが生息する屋久島の原生林の中で、現代に生きるヒトの本性をめぐり、二人の深い対話は続けられた。知のジャングルで、ゴリラから人間の姿がいきいきと浮かび上がる稀有な一冊。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
やすらぎ🍀
186
人間が争い心が荒れていることをゴリラの森ではどう感じているのだろう。ゴリラは今を生きていて、皆で喜びのハミングをしたりする。ドラミングは平和のしるし。争うためではなく互いの感情を理解するために顔を覗く。言葉のない世界を見つめることで言葉の意味を知る。どんなに優しい言葉より微笑みが嬉しかったりするから。過去や未来という概念を持ってしまった私たちは独自の道を歩みながら物語を深く思考している。自然の中を歩く行為と本を読む体験は似ているのかもしれないという。なぜ私たちが本を強く求めるのか、少し理解できた気がする。2023/01/15
kaoru
95
ゴリラの研究者山極先生と小川洋子さんの対談。「人間はなぜ戦争をするのか」と問う小川さんに山極さんは人類が言葉を持ったせいだと答え「言葉を使うというのは、世界を切り取って…非常に効率的に自分の都合の良いように整理しなおすということ」「情報技術が極端に発達した今、羅針盤だった言葉がいつのまにか鉄縄網となってぼくたちを取り囲み、自由を束縛しようとしている」と書く。それでも原初の森の精神にもどるにはふたたび言葉に頼るしかない。屋久島でのフィールドワークで川に落ちた小川さんは森という世界を肌で感じただろう。→2022/05/11
しいたけ
95
ゴリラを知ろうとすることが人の不思議にぶち当たる、その深さと拡がり。全ての生き物に無知で、それには自分のことも含まれる。自分の行動の所以が、心の動きが、いつもさっぱり分からない。分からないまま社会や他人のせいにする。この本で考えたこともない視点を得た。熱帯雨林を出てサバンナで生きることを決意した、あの日の一歩めを思ってみる。この時代この地域で生きている自分しか眼中になかったが、そうではなかった。太古から繋がる自分がいる。ゴリラが噛みしめる孤独と私が抱える孤独はどこが違うのだろう。ものを考えることは楽しい。2021/11/24
rico
65
ゴリラの眼差しを持つ山極先生。言葉に対峙し物語を紡ぐ小川さん。ひれ伏すのではなく構えるのでもなく。人を生み出した自然や人が生んだ言葉というものに対して、畏れを知り、真摯にしかし自然体で向き合うお二人の対話の深さ。引き込まれる。単行本出版はコロナ前だが、画面ごしのコミュニケーションが広がり言葉の手触りが感じ辛くなった今だから、そしてかの国の終わりの見えない戦い中で言葉が燃料として投下され続けている今だからこそ。シルバーバックの美しい背、屋久島の豊かな森。そこに心を預ければ見えてくるものがあるのだろうか。2022/04/08
さぜん
58
課題図書。言葉のプロフェッショナルの小川さんと著名な霊長類学者の山極氏の対談集。言葉の世界に生きる私達と言葉ではないもので関係を築いていくゴリラの世界。違う視点で見たり考えたり感じたりすることで、自分の生きている世界がより奥深く立体的に見えてくる。共通することは愛情と信頼。それが最優先されればもっと優しい世界になるのでは。言葉を持つ人間は想像する力がある。戦争がどんなものか想像できるはずなのに。2022/04/25