内容説明
1873年の徴兵令の制定以来,文明開化の推進力となり,全国に近代秩序を浸透させた日本の軍隊.それが反近代的な皇軍へと変貌を遂げたのは,なぜか.日本の民衆にとって,軍隊経験とは,どのような意味があったのか.豊富な史料をもとに,「天皇の軍隊」の内実を解明することで,日本の近代を描き出す.
目次
序章 分析の視角┴第一章 近代社会の形成と軍隊┴1 時間・身体・言語┴2 軍隊と「文明開化」┴3 社会の規律化・組織化┴第二章 軍隊の民衆的基盤┴1 「人生儀礼」としての兵役┴2 軍隊の持つ平等性┴3 社会的な上昇の通路としての軍隊┴4 農村の貧しさ┴5 「忠良」な兵士の供給源┴第三章 総力戦の時代へ┴1 軍部の成立┴2 軍改革への着手┴3 軍改革の限界┴第四章 十五年戦争と兵士┴1 国軍から皇軍へ┴2 大量動員とその矛盾┴あとがき
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
樋口佳之
69
軍隊の中には、日本の近代化の独特のありようが凝縮された形で表現されて…「昭和の陸海軍」は、日本社会が産み出した異物でも、鬼っ子でもなく、私たちの近代化そのものの一つの帰結/徴兵された国民を通じて、衣食住から身体の使い方、言葉等々を変えて行った事が学べましたが、それは近代化だったのだろうか、強国化に相応しい軍隊と国民を作ったに過ぎなかったのでは。故に世紀をまたいで大衆的デモクラシーと総力戦の時代となった時にまともな対応が出来ず、むしろ「皇軍」と言う神がかりに陥ってしまったのではと読みました。2022/03/19
nnpusnsn1945
44
電子版にて読了。個人的には『日本軍兵士』よりも面白く感じた。人生道場、文明開化の入口としての軍隊や、大正時代の改革、軍内部の格差など面白いトピックが多い。脚気も絡むパンのくだりは特に良い。また、軍隊生活が腕時計の普及に絡んだ話は初めて知った。ただし、農村の時間は割りとアバウトだったらしい。また、最後のあたりに餓死、海没死、特攻死についてはちゃんと書かれている。ポートモレスビー作戦にあたった南海支隊の歩兵第114連隊の兵士は竹を救命胴衣代わりにしていたらしい。「忠勇無双の我が兵」の裏側もきちんと書いてある。2022/10/08
skunk_c
26
2003年刊でパラパラと部分読みはしていたが今回完読。日本の軍隊の有り様を、軍だけを切り離すのではなく、明治以降の日本の近代化の帰結として捉える視点から叙述する。軍隊内の私的制裁、特に皇道派荒木貞夫が陸相になってからの軍の精神主義化、そして農村社会と農民を基盤とした軍の社会的基盤が、第1次世界大戦後の世界においては時代遅れになっていたのに、変革できなかったこと、これらが日中15年戦争の加害・被害両面での悲劇に繋がっていくとの指摘は重要だ。軍だけを切り離して責任をかぶせる視点の不十分さに注意を向ける良書だ。2019/01/11
ステビア
21
明治初期においては近代化に貢献した軍隊だったが、第一次世界大戦以後は総力戦に備えた自己革新に失敗し、逆に近代化にとっての桎梏となった。2022/03/13
ジュン
14
あのベストセラー、『日本軍兵士』(中公新書)の吉田先生による、旧軍と日本社会の分析。非常に透徹している。日本の近代化の原動力となった軍が、なぜ昭和の障害と化したのか?戦争は嫌だという、その「なぜ」を教えてくれる一冊。もっと広く読まれてほしい。2021/09/25