内容説明
ノーベル化学賞受賞の科学者、唯一の手記
ゲノム情報を意のままに編集できる「CRISPR-Cas9」。
人類は種の進化さえ操るに至った。科学者自ら問う、科学の責任とは。
「君の技術を説明してほしい」
ヒトラーは私にこうたずねた。その顔は豚である。
――恐怖にかられて目が覚める 。
ヒトゲノムを構成する32億文字のなかから、たった一文字の誤りを探し出し、修正するという離れ業ができる、その技術CRISPR-Cas9(クリスパー・キャス9)。2012年にその画期的遺伝子編集技術を「サイエンス」誌に発表したジェニファー・ダウドナ博士は、またたく間に自分の開発した技術が、遺伝病の治療のみならず、マンモスを含む絶滅動物の復活プロジェクト、農作物の改良など燎原の火のように使われていく様におののく。
豚の内臓を「ヒト化」し、臓器移植するための実験も行なわれた。
人間は自らの種の遺伝子までも「編集」し、進化を操るところまで行ってしまうのか?
解説・須田桃子(毎日新聞科学環境部記者)
※この電子書籍は2017年10月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
gonta19
118
2021/10/17 喜久屋書店北神戸店にて購入。 2022/1/17〜1/25 2020年にノーベル化学賞を受賞したダウドナ博士がどのようにCRISPR-Cas9の発見をしたか、また、その波及効果に心を悩ませたか、について綴った自叙伝。浅学にも名前程度しか知らなかったが、発見の歴史から応用の広さ、倫理的難しさまで非常によく理解できた。2022/01/25
うつしみ
8
別の本の感想に地球の主は細菌ではないかと書いたが、更に先輩がいた。細菌に感染するウイルスの方が細菌の数より圧倒的に多いそうで。細菌にも獲得免疫と免疫記憶が備わっている。それこそが筆者の発見したCRISPR-Cas9;ファージDNAを破壊する為に細菌ゲノムに組込まれたリピート配列である。一度基礎が解明されると応用までは一直線。遺伝子編集動植物、遺伝子治療、デザイナーベイビー等々、倫理的問題を含んだ技術が広まろうとしている。生態系のゲノム汚染も心配になるが、筆者が常識人かつ慎重派で行動家である事に救いがある。2023/07/24
Kan
8
クリスパーは「数十塩基対の短い反復配列を含み、原核生物における一種の獲得免疫系として働く座位である。配列決定された原核生物のうちプラスミドといった外来の遺伝性因子に対する抵抗性に寄与している」遺伝編集技術の革新がクリスパーによってなされた。著者ジェニファーダウドナさんの地道な研究と国境を超えた研究者の協力がこの偉大な技術の開発に結びついた。エピローグでは遺伝子編集に対する市民のと科学者のつながりがなく、誤解が生じていると述べている。本書が遺伝子編集に対する正しい理解を促す一冊になるのではないだろうか。2021/11/13
Hiroshi
6
ここ数年で変わった事がある。DNAやタンパク質に関係する用語を検索すると、以前は大学の研究室が上位に表示されていた。だが今日はバイオ企業が上位を占める。クリスパー-キャス9(以下クリスパーと略す)の出現で企業が遺伝子工学に参入しやすくなったからだ。そのクリスパーを開発してノーベル化学賞を受賞した著者が語るクリスパー開発への道と、その技術の可能性と危険性の話。ゲノムはデオキシリボ核酸(DNA)という分子からなり、DNAは二重らせん構造をしている。DNAはRNAに転写され、RNAが翻訳されてタンパク質を作る。2022/02/01
DK-2084
3
★★★☆☆2022/10/23