内容説明
年間約17万人――高齢化が進む日本では、孤独死など病院外で死ぬ「異状死」が増え続けている。そのうち死因を正確に解明できるのは一部に過ぎず、犯罪による死も見逃されかねないのが実情だ。なぜ、死ぬ状況や場所・地域によって死者の扱いが異なるのか。コロナ禍でより混迷を深める死の現場を赤裸々な証言で浮き彫りにする。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
trazom
108
「異状死」(病院以外で死亡すること)という言葉を初めて知る。犯罪の疑いが薄い場合は、行政解剖、承諾解剖、調査法解剖の制度が、犯罪の疑いが残る場合は司法解剖の制度が機能する。公衆衛生目的のGHQの制度とドイツの刑事システムが混在した日本の仕組みが、「死因究明制度」として如何に脆弱であるかが、世界との比較の中で示される。制度を支えるのは法医学者。「せっかく医師になったのに死体を相手にするなんて」という偏見に晒されながら、死者の尊厳を守り、死因究明で得られた教訓を生者に生かそうとする使命感の崇高さに頭が下がる。2021/12/08
パトラッシュ
102
法医学が題材のドラマでは科学捜査により異状死の真相が明らかにされるが、そんな体制のできている地域はごく一部しかない「格差社会」の現実は衝撃的だ。人を殺したいのなら検死が不十分な土地で、事件性のない自然死に見せかければ成功する確率が高い。警察や検察は死因が多少不自然でも面倒を嫌がり、捜査に都合がいい検案書を書くよう監察医に求めるいい加減さが蔓延している。国民は日本は治安がいいと信じて疑わないが、実際は年間17万人に及ぶ異状死体の中に犯罪が隠されているのではと恐怖を覚える。死を見て見ぬふりはいつまで続くのか。2022/01/31
きみたけ
67
著者は国際ジャーナリストの山田敏弘氏。日本における死体の扱われ方について、現場で奮闘する法医学者らの証言をもとに明らかにした一冊。現場の過酷さを感じました。日本では死ぬ場所や地域によって死者の扱いが異なり、法律の不備に由来する構造問題の結果、すべてのしわ寄せは死因を特定する解剖の現場にあらわれているのが実情。死んだ後に、自分が人間としてどう扱われるべきか、それが生きている人たちにどう影響を与えるのかを考えるきっかけになりました。「神奈川問題」、形だけの解剖で原因究明せず、解剖代を遺族から奪うのは許せない。2023/05/15
ベーグルグル (感想、本登録のみ)
56
監察医である上野さんの著書は何冊か読んだ事がありますが、法医学については知らない事が多かったので、とても勉強になりました。異常死で事件性がある司法解剖が出来るのは、大学病院の法医学だけとは。しかも日本で150人ほどの少なさ。警察のいいように解剖が誘導されたり、はたまた地域によっては有料(神奈川県)の所も。その解剖も3~4時間かかる所を20分で終え、内容はずさんのようで驚きばかりでした。日本の平均解剖率は11%と低いなら、事件性が野放しになっているのもあるだろう。もっと法医学の整備は必要だと感じました。2021/12/05
つちのこ
40
年間17万人の異状死に対して、わずか11%という解剖率。先進国にあっては最低レベルの数値である。警察が異状死体の犯罪性の有無を判定するという客観性を無視した体制、法医学者の不足、低予算による自治体の死因究明機関の設備不備が解剖率の低さとして表れている。そもそも異状死体を司法解剖にするか否かの判断を法医学者でもない警察医がすること自体に問題がありそうだ。これによって多くの犯罪死が見過ごされてきたのは想像に難くない。後妻業の女と呼ばれた青酸カリ連続殺人事件を起こした筧千佐子には周辺に11名の不審死が分か⇒ 2021/12/25