内容説明
長らく医療少年院、拘置所、医療刑務所で受刑者の治療に携わってきた精神科医が、刑罰と医療のあいだにあるもつれを描くエッセイ。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
135
刑務所の受刑者について、一般人は「犯罪者だから当然」というところで思考停止している。しかし少年院や刑務所で精神科医として働いてきた著者は、罪を犯した者の多くが想像を絶する過去や障害を抱えて苦しんでいる事情を明らかにする。罪は罪として罰するのは当然だが、その罪を犯すに至ったのかは単純な善悪論で判断できない実態は人間の弱さ愚かさを思い知らされる。治療を必要としながら建前を遵守する法に阻まれる姿は、法による犯罪ではないかとすら思える。人の造った制度は不完全だが、不完全さを少しでも是正する努力を放棄していないか。2022/01/21
よしたけ
60
刑務所勤務に従事した精神科医によるエッセイ。受刑者達の回顧が単純に興味深い。拘置所で向精神剤に依存するも刑務所移動時にこれを断つ受刑者、釈放のない死刑囚に対峙する難しさ、認知症発症も刑執行停止得られない受刑者(刑執行は裁判所⇔なぜか停止は検察)、心神喪失得ようと詐病する被疑者(心神喪失判断は犯行時だが演じ続ける)、刑務所意義:日本=刑罰⇔北欧=社会復帰、手に負えない息子を縛り付けるも虐待意識無い両親、殺人=悪の判断軸持たない受刑者治療、摂食障害の万引きへの発展事例、強制矯正より内省による自己矯正必要、等。2023/07/03
くさてる
42
刑務所や少年院などの矯正施設で精神科医として働き続けた著者によるエッセイ。いくらでもドラマチックに描くことは可能だったエピソードでも淡々と穏やかな筆致で描く姿勢は、そのまま医師としての冷静さを感じさせて好感が持てた。現場にい続けた著者が、まずは彼らの生活史や生活の安定、福祉の視点を持っているのもリアル。矯正施設での医療の限界と刑罰の関係性はとても複雑で簡単に答えが出せるようなものではない。それでも犯罪者の処遇に真に必要なものは?を考えるのに良い一冊でした。2022/07/26
J D
39
エッセイ風に書かれているので読みやすい。刑務所、少年院における治療の難しさや被収容者との医師の視点での関わり方など興味深く読めた。その中で少年院や刑務所で面接に関する箇所でヤスパースの言葉「精神療法の根本は、どれほど異常な、どれほど不快な人間に対しても忍耐をすることにある」を引用しているところ。この言葉を知っただけでも読む価値はあった。なかなか、示唆に富む本だった。2022/06/03
Cambel
38
本書の前半は『ケーキの切れない非行少年たち』と共通する記載、後半は被収容者が高齢化して認知症を発症しているのに治療がままならない問題が述べられていた。更に海外の開放型の刑務所の例も紹介されていた。刑務所以外の勤務先での経験も書かれていて、精神医療は医学の他の分野よりも、科学以外の背景、たとえば、世論や文化、個人の生活史など広くが関わり、科学の進歩以外にも影響を強く受ける分野だと感じた。そんな中で諦めずに臨床や研究に取り組んでくれる精神科医に尊敬を感じずにはいられない。2022/08/07
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