内容説明
――わたしの旅は言葉の旅でもある。多言語の中を通過しながら、日本語の中をも旅する――
「エッセイの元祖」モンテーニュ縁のサンテミリオン、神田神保町を彷彿させる「本の町」ヴュンスドルフ、腕利きのすりが集まるバーゼル、ヘルダーリンがこもったチュービンゲン、エミリー・ディキンソンが生涯過ごしたアマスト、重い記憶を残すアウシュヴィッツ。ブダペストからリガ、アンマンまで、自作の朗読と読者との対話をしながら世界四十八の町を巡り、「旅する作家」が見て、食べて、出逢って、話して、考えた。心と身体を静かに揺さぶる、五十一の断章。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐島楓
72
欧米を旅した著者のエッセイ。エッセイだと思って読んでいると、旅先で遭遇したものごとがとても物語的で、現実とフィクションの境目があいまいになる。それぞれの土地の文化の違い、言語の差異を敏感に感じ取る力がなければ、特にヨーロッパは渡っていけない。各地で開催される文学のフェアにも敬意をはらいたい。不思議な世界を旅した気分になった。2021/08/12
hasegawa noboru
16
2005~6年、朗読や講演など招待されて行った世界の町への旅の小エッセイ集。「ブダペストからアンマンまで48の町を翔ける51篇」(帯コピー)。言葉が次々と出てくる感じの作者固有の文体だが、短い小説よりも短いので読みやすい。アウシュビッツを3頁強で書く作家の力量。<旅人としてのわたしの体験はマッチを擦った瞬間にその光でまわりが見えるようなもので、炎は数秒で消えて、あたりはまた暗闇に戻ってしまう。世界はなかなか見えにくい。旅をすることで見える範囲など限られている。><記憶の断片が光り、これまで見えなかったもの2021/07/26
ぱなま(さなぎ)
15
主に文学や演劇の催しに招かれて各地を旅する著者のエッセイ。もとは新聞連載だったらしく一編が3ページ程で隙間時間に少しずつ読みやすく、気軽に旅をすることも叶わぬ身としては非常に癒された。観光旅行ではなく多和田氏の作品と彼女自身の言葉に対する感覚そのものが旅と旅とを繋ぐ糸として機能しているため、その中のエピソードにも多和田氏特有の関心やユーモアが広がっているようで面白い。実際に現地で足を運ぶ旅とは、ガイドブックの情報を確認して帰ってくるだけではない、こんなにも個人的なものだったと思い出させられる。2023/03/12
真琴
12
★★★★☆ ブダベスト、グラーツ、ハンブルグ、パリ・・・。朗読会などで訪れた地を歩きながら見たもの食べたもの触れたものなどが描かれた旅のエッセイ。その土地土地での空気や匂いなどが肌を通して伝わり染み込んでくるようでした。2023/02/21
ハルト
12
読了:◎ 旅をしながら言葉を語る。すり抜けるように言葉を浴びる。もはや、旅が身体の一部となってしまったかのような、そんな旅。ごく短いエッセイが数珠のように連なりながら、通り過ぎてきたあの町、この街が記録されている。シンプルなぶん、心にストレートに伝わってくる旅の余韻。異国での人々、言葉。知らなかった街を、少しだけ著者の目を通して、知れた気になる。旅というのは、言葉を集めるのにもいいものなんだなと、しみじみと感じた。2021/09/19