内容説明
軽妙な語り口で市井の人びとの日常をユーモラスに描いた梅崎春生。一九五五年に直木賞を受賞した表題作ほか、「黒い花」「零子」(全集未収録)など同賞の候補作全四篇と、自作について綴った随筆を併せて収める。文庫オリジナル作品集。
〈解説〉荻原魚雷
■目次
Ⅰ
黒い花/零子/拐帯者/猫と蟻と犬/ボロ家の春秋
Ⅱ
私の小説作法/私の創作体験/わが小説/私の小説作法
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
アナーキー靴下
82
猫アンソロジーでも読んだ、三たびの「猫と蟻と犬」収録の短篇集。第一印象は悪かったのに『怠惰の美徳』に妙味を感じ好きになってしまった梅崎春生。本書は印象が大きく異なる作品が収められており新鮮だった。「黒い花」「零子」は大切なものを奪われたと感じる女性が愛されることを執拗に求め続けてしまう、そうした心情がリアルに伝わってくる作品。「ボロ家の春秋」は本の紹介通りユーモラスな作品。どちらにも通じるのは、人間の心理を非常に良く理解している、という点。だからこそ、胸に迫る作品も、思わず笑っちゃう作品もあるんだな。2022/04/07
たくろうそっくりおじさん・寺
58
こないだ出た文庫。編者の荻原魚雷曰く、『ボロ家の春秋』は21~2年ごとに文庫化されているそうだが、この表題作は青空文庫にあるので是非読んでみて欲しい。面白くてズルズル読んでしまう。今回復刊したのは、何かしら仕組まれているような気がする。というのも、先日、ちくま文庫から野呂邦暢の『愛についてのデッサン』が出て話題になっているが、野呂邦暢というペンネームは、『ボロ家』の登場人物から拝借したそうで、本書は野呂邦暢のエッセイ入りである。おまけに中公文庫は今月中に丸山豊の散文集を出すのだ。丸山豊というと、(続く)2021/07/02
ゆきらぱ
31
文体が重い「黒い花」「零子」が好み。「ボロ家の春秋」は最初おしゃべりを聞いている気分で読んでいたが次第に愚痴っぽくなりなかなか読み進めずでした。2021/08/11
練りようかん
12
5編収録。はじめの2編、次の2編、最後の1編の3つのグループに分けられると感じた異なる文体で、探究に向けた固さからヌケへ印象の変化が興味深かった。小説作法のエッセイも併録されており、書きたいことより手法が溢れていたのではないかと思った。契約詐欺にあい失われた客観性とアイロニーを底に忍ばせた最後の表題作で直木賞を受賞したことが面白い。同居する2人の男が同盟を組めばいいのに何かある毎に気持ちが離れていくのは、家を1人の書き手として考えると色々想像させるものがある。作家人生にドラマを感じた。2025/04/12
かもすぱ
9
梅崎春生3冊目。直木賞候補作と受賞作、それと小説作法の随筆の短編集。『怠惰の美徳』からこの作者を知り、気の抜けた作風として認識していたので、初期の張り詰めた緊張感のある作品には驚いたが、これはこれでかなり好きな作品だった。特に『零子』。表題作『ボロ屋の春秋』は持たざる者同士で協調すべきはずがいがみ合って、知らないところで第三者が利益を掻っ攫っていくユーモラスな中の悲哀があった。2023/10/22
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