内容説明
「この先にね、月に一番近い場所があるんですよ」。死に場所を探す男とタクシー運転手の、一夜のドラマを描く表題作。食事会の別れ際、「クリスマスまで持っていて」と渡された黒い傘。不意の出来事に、閉じた心が揺れる「星六花」。真面目な主婦が、一眼レフを手に家出した理由とは(「山を刻む」)等、ままならない人生を、月や雪が温かく照らしだす感涙の傑作六編。新田次郎文学賞他受賞。(対談・逢坂剛)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
mae.dat
309
科学が解き明かし重ねて来た現象や知識と、人の活動や心理、観念の様なものとの融合。融合というか、対比でしょうかね。これが見事に作品の特色となっていますね。これは、新潮社の担当さんの助言が契機になっていたとか。担当さんナイスです。人生に行き詰まり気味の人達が、新しい人と触れ合う事で新たな側面に気付かされてって言う引き。皆んなその後に幸あって欲しいけど、どうなったのかなぁ。少し心配な人も居るけどな。ゾワゾワする。『天王寺ハイエイタス』の哲おっちゃんみたいな人が近くに居たら困るけど、格好良いね。いや、そうかなぁ。2022/11/06
こーた
289
科学者の描写はもとより、彼らに対する世間一般の目線まで含めよく描かれている。いずれもミステリ仕立てだが、科学をトリックとして用いるのではなく、科学そのものの内包する奇妙なおもしろさが、小説のそれと見事に重なる。小川洋子『博士の愛した数式』の地球惑星科学版、とでも云えば少しはその魅力が伝わるだろうか。学術論文のように無駄なく練られた構成は、飽きさせずにぐいぐい読ませる。いずれ劣らぬ良作ばかりで甲乙つけ難いが、ひとつ挙げるとすれば「エイリアンの食堂」。あさの中央線で読みながらおいおい泣いた。2021/07/30
ykmmr (^_^)
262
名前も存じなかった作者。こちらで感想等を聞いて興味を持った。まずは…一作目から号泣してしまった。本当にたまたまそのタクシーに乗っただけなのに、運転手共々運命の出会い。タクシーの運ちゃんとのやりとりって、何気に楽しみでもあるけど、こんな出会いで、人生を変える。実は、いつも側にいる人たちより、普段あまり会わない人や知らない人の方が話せる事があるもんね。作品の長さも比例していて、現代版『高瀬舟』ですね。そして、文系と理系の融合は、『博士の愛した数式』とまた同じ。天文学が苦手な私にはまた勉強になるし、2021/10/17
海燕
240
理学系専攻で博士課程まで修了されている著者の短編集。専門知識が筋立てに密接にからんでくるのかと思えばそうではなく、むしろ導入として理科の話を用いる感じで、それが奏功しているようだ。読みやすい反面、物足りなく感じる部分もある。どれも温かく、進む先に希望を見出だせるような6編。好みは表題の「月まで三キロ」と「星六花」。2021/07/27
五右衛門
231
読了。初めての作家さんでした。凄い人気で。解りました。人気の秘密が。いきなり表題作。少し重めの話かな?となりながらも気が付けばずっと月明かりに照らされながら物語が進んでおり、最後も月夜の中でした。短編集でしたが各章で科学要素が入っており何度もへえ~となりました。蘊蓄臭さがまるでなかったので読み易すかった。またまた追いかける作家さんが増えました。次巻も楽しみです。2021/10/06