内容説明
その鏡は、磨く者の願いを叶えるという。会いたい、羨ましい、妬ましい、もっと欲しい、憎い……。願えば願うほど、心に秘めた黒い欲望は醜く膨れ上がり、全てを呑み込む。看護婦の羨望。鏡研ぎ師の嫉妬。踊り子と富豪の禁忌の愛。戦争孤児と奇術師の絆。ヴェネツィアの双子姉妹の過ち――。鏡に魅入られた人々が陥る、束の間の甘美な愉悦と残酷な結末を描いた、五つの物語。(解説・飯豊まりえ)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アッシュ姉
86
願い事が叶う鏡をめぐる連作短編集。レトロな語り口に誘われて、するする読めて面白かった。欲望に惑わされる人たち。愛されたい幸せになりたいと願っていたはずなのに段々と欲深くなり、嫉妬や憎悪など負の感情に黒く覆われていく。結末は何となく予想つくものの答え合わせをするように楽しめた。切なく苦い後味もよかった。2022/03/16
キンモクセイ
63
不思議で妖しいある鏡についての5つの物語。その鏡を磨くと願いが叶うという。人間の奥底に潜む黒い欲望。手に入るのなら過ちでもかまわない。誰もがそんな風に思ってしまう。羨望、嫉妬、歪んだ愛情、気づくのが遅すぎた絆、増悪、人は欲望を満たすためなら裏切りも破滅もある。本当に魔境なのだろうか?「その鏡に願ってはいけない」と言われても無理だろう。願いが叶ってしまうと思い込みだけなのか?そんな鏡が手に入るとしたら、願いますか?私なら...手に入るなら願ってしまうかも。その代償がたとえあったとしても。私は弱い人間だから。2021/09/26
NADIA
58
「願いを掛けながら磨くと願いが叶う」という言い伝えのある姿見の金属鏡にまつわる5編の連作短編集。どれもアンハッピーエンドを迎えるオカルト色の強いイヤミス。子供の頃に読んだコミック あしべゆうほ作『悪魔の花嫁』の空気感にとても近いものを感じた。『スタアの鏡』『双生児の鏡』が特に印象深い。こういう作品も時々読みたいね。2024/04/15
annzuhime
58
その鏡を磨き続けたら願いが叶う。魔鏡に見せられた人間たちの弱さと欲望と闇。その願いが叶う時、代償として何かを失うかもしれない。そうと分かっていても願ってしまうのが人なのだろう。ゾッとしたり切なくなったり、わずかに光が差したり。どの話も面白く読ませてもらいました。2021/10/29
けいこ
53
ある古い鏡に纏わる連作短編集。この鏡を磨くと願いが叶うと言う。人間の欲は底を知らない。それは自滅へと続く道。その鏡に写るのは欲の塊の醜い自分。秋吉さんは、誰もが持っている人間のちょっとした嫌な部分を取り上げるのが上手い。今回もどの話もゾワっとして面白かったです。2021/06/19