内容説明
20世紀が遺した最大の奇跡
アウシュヴィッツに散った作家のトランクに眠っていた遺作長編。戦時下の人間の心理を鮮やかに描き出す、世界350万部のベストセラー。
1940年初夏、ドイツ軍による首都陥落を目前に、パリの人々は大挙して南へと脱出した。その極限状態で露わとなる市井の人々の性を複線的かつ重層的に描いた第一部「六月の嵐」と、ドイツ占領下のブルゴーニュの田舎町を舞台に、留守を守る女たちと魅惑的な征服者たちの緊迫した危うい交流を描く第二部「ドルチェ」。動と静、都会と地方、対照的な枠組みの中で展開する珠玉の群像劇が、たがいに響き合い絡み合う―。
著者は1903年キエフ生まれ、ロシア革命後に一家でフランスに移住したユダヤ人。42年アウシュヴィッツで亡くなった。娘が形見として保管していたトランクには、小さな文字でびっしりと書き込まれた著者のノートが長い間眠っていた。連行の直前まで書き綴られたこの小説が60年以上の時を経て世に出るや、たちまち話題を集め、2004年にルノードー賞を受賞(創設以来初めての死後授賞)、フランスで75万部、全米で100万部、世界で350万部の売上げを記録した(2014年に映画化)。巻末に収められた約80ページに及ぶ著者のメモや書簡からは、この奇跡的な傑作のもう一つのドラマが生々しく立ち上がる。カバー写真は名匠ロベール・ドワノー。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
まふ
112
全編4話(?)の第2話までで終わった未完の大作。第1部「6月の嵐」はナチスドイツのフランス侵攻によりパリから逃げまどう銀行家ペリカン一族とその周辺の人々の逃亡の状況を中心に描かれる。第2部「ドルチェ」は占領下のドイツ軍兵士たちとの心のふれあい状況が展開される。作者は当時のソヴィエト領内のウクライナでフランス語を話す家庭に生まれ育ちアウシュヴィッツ収容所で死んだユダヤ人である。全編から溢れるのは「戦争の空しさ」であり、残る後半が未完なのは惜しまれるところである。G526/1000。2024/06/02
駄目男
22
初読みの作家でイレーヌ・ネミロフスキーと言われても誰ことやら分からないまま読んだが、著者は女性作家だったんですね。それも現代作家ではなく、すでに1942年7月、フランス軍憲兵によって拉致されて以来、消息を絶ったままアウシュビッツで殺害されている。必死になって妻の消息を探す夫も10月に憲兵に逮捕され、同じ運命を辿った。本書は当初、トルストイの『戦争と平和』のように1000ページほどの長大なものを予定していたらしいが、先に書いたような状況で未完に終わってしまった。それでも500ページにも上る二部制で、2023/08/23
algon
14
大ヒットとなった未完の大作だが読了後のインパクトは内容よりも作品草稿が歩んだ履歴にあった。著者は2部まで完成した原稿を娘に託しアウシュビッツに消えた。本の出版は2004年の事。5部構成を予定したこの作品は2部までの未完とは言えドイツに蹂躙されたフランスの被占領地としての陰陽を仮借なく描き出す。その中での大衆の混乱、ブルジョアの心根、そういう世相の中での愛の様相などを言わば香しい筆致で著わしていく。付された相当量の資料が作品全体の目論み、表現の規定などを著わし、拉致後の周辺の書簡等も。読めたことが有難いと。2022/12/28
北風
13
フランス組曲。未完の作品がトランクの中に眠っていたのだという。ずっと気になっていたが、戦争の話とは知らなかった。また、ロシアのことを考えてしまう。五部作が完成されていたら、どれほどの作品だったことだろう。未完の傑作というにも完成度が高い。戦う兵士が主人公ではない。逃げ惑う一般の人々が描写されている。戦争という暴力に抗う人々が描かれ、その日常が描かれている。著者はそれを体験した人のようなので……。いま現実に起こっている戦争に、思いを馳せる。近頃では、日本のニュースも乏しくなる。物語も、外国同様、遠い異国。2022/07/15
葉桜
4
この作品が未完に終わったこと、娘に託されたトランクから原稿が発見され出版に至ったこと、作者がフランスから連行されアウシュビッツで亡くなっていること、この事実の重さと、冷静でバランスのとれた筆致で描かれる物語の見事さのどちらもに圧倒される。残されたメモで、六月の嵐とドルチェだけでなく第三部にあたる捕囚やその後の構想も示されていて興味深い。この組曲はパリ陥落からの脱出劇やドイツ占領下のフランスを目撃したものならではの描写だけでなく人間性をしっかり描きこんでおりそこが素晴らしい。何を言っても言い足りない気がする2024/07/13