内容説明
ことばには内容を表現するだけではなく、〈その人らしさ〉を表現し、話している人同士の関係を作り上げる働きがある。ことばの背後にある社会の規範や価値観を解きあかす社会言語学の知見から、「名前」「呼称」「敬語」「方言」「女ことば」といった観点を通して、ことばで「自分」を表現するとはどういうことかを考える。
目次
はじめに
第1章 アイデンティティ表現の材料としての「ことば」
1 人との関係から立ち現れるアイデンティティ
2 「本質主義」と「構築主義」
人と関わり合う前の自分は空っぽなのか?
アイデンティティはいくつもあるのか?
3 アイデンティティの三つの側面──マクロ・メソ・ミクロ
4 表現の材料は無限にある
服装や髪型も「ことば」
アイデンティティを伝える「ことば」の種類
言語資源
5 「ことば」の制限と創造性
第2章 名前──「わたし」を示すことばの代表
1 名前に対する二つの感覚──「名実一体観」と「名前符号観」
一人一名主義
アメリカの命名と日本の命名の違い
2 人が変わって名前が変わる、名前を変えて自分も変わる
3 名づけには制限がある
4 婚姻改姓は何を変える?──ひとつの姓に束ねられた家族像
夫婦同姓と家族単位の戸籍
姓によって残された「家」意識
なぜ日本では女性が婚姻改姓するのか
女性の婚姻改姓にともなう問題
選択的夫婦別姓
姓が違うと、家族の一体感がなくなりますか?
5 たくさんの名前を持つ現代人──演じ分ける「わたし」
第3章 呼称──呼び方で変わる関係
1 「あたし・うち・ぼく・おれ」どれを使う?
女子が「ぼく」を使うのは、間違い?
男女で異なる自称詞は明治時代につくられた
異性愛規範を確実にする装置
LGBTを苦しめる「おれ」の男らしさ
2 女子が使う「うち・ぼく・おれ」
女子は「ぼく・きみ」を使いつづけてきた
突然の「わたし」への変身
「異性愛市場」の出現と「女」になることへの不安
新しい〈少女性〉の創造
「ボクっ子」を消費する
「ぼくは望んで妊娠しています」
「わて」と「あんさん」
3 ことばを変えることで関係を変える
第4章 「ことば」とアイデンティティの結び付き
1 言語要素
「スタンスと特質」と「社会的アイデンティティ」
直接的な結び付きと間接的な結び付き
言語イデオロギー
2 指標性
3 メタ語用論的言説
4 「○○ことば」とアイデンティティ
クイーンズ・イングリッシュ(女王の英語)
外国語なまりの英語を話すディズニーアニメの悪者
ネイティブ・アメリカンの高いほほ骨
グループを区別する理由がないと「○○ことば」は成立しない
第5章 敬語──「正しい敬語」から「親しさを調整する敬語」へ
1 日本語の敬語体系
敬意(上下関係)と距離感(親疎関係)
2 日本人なら「正しい敬語をマスターすべき」──敬語イデオロギー
「社会人」に鍛えなおすという権力
敬語をマスターすることは、エライ?
3 「正しい敬語」を決められるのか?
「上下関係」から「親疎関係」へ
敬語の岡田准一とタメ口の妻夫木聡
いつ、だれに、どのくらい、どの敬語を使うべきなのか?
永遠のベストセラー「正しい敬語」のマナー本
4 アイデンティティを変化させる敬語の使い方
〈親しい丁寧さ〉を表す「マジヤバイっす」
新聞にあらわれる皇室敬語の違い
「ため口キャラ」の登場
第6章 方言──「恥ずかしいことば」から「かっこいいことば」へ
1 「国語」の弊害としての「方言」の誕生
言文一致
上田万年と「国語」の創造
標準語イデオロギー
国語の成立をじゃまする方言
方言受難の時代
「方言について語ることば」がつくる「方言イデオロギー」
2 方言とステレオタイプ
地域・人物像・イメージとの結び付き
方言の「凝縮化」
疑似東北弁に翻訳されてきた黒人奴隷のセリフ
3 よその言葉を借りてくる──ことばの越境
方言とアイデンティティの三つの関係
「スタイル的な越境」と「パフォーマンス的な越境」
なぜ強盗は英語を話し、警察官は関西弁を話したのか
第7章 「女ことば」──伝統的な〈女らしさ〉から辛口の材料へ
1 「女ことば」とは女性が使っている言葉づかいなのか?
2 「女性が使ってきた言葉づかいだ」という考え方の問題点
明治時代の「女学生ことば」から派生した
女性はみんな〈女らしさ〉を持っているという前提
昔の女性も「女ことば」を話していなかった
3 「女ことば」をつくってきたメタ語用論的言説
「最近」の言説
翻訳で使われる「女ことば」
後からつくられる伝統
4 女性の言葉づかいの規範としての「女ことば」
内田裕也を動かした蓮舫の話し方
5 攻撃的な「女ことば」・オネエことば
主張や怒りを表現する「女ことば」
オネエことば
「女ことば」のパロディとしてのオネエタレントことば
なぜ「オニイことば」はないのか
おわりに
参考文献
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