内容説明
喪失の時代、私たちを支える「他者」との邂逅
古今東西の哲学者、宗教家、詩人、作家、そして無名の人々の言葉を引用し、「生きがい」とは何かを論じた神谷美恵子の『生きがいについて』。刊行から50年以上読み継がれるこの一冊は、神谷美恵子の生涯や他の作品に照らすとき、作家自身の精神的自叙伝としての姿を現す。誰かのために、何かのために必要とされることこそが「生きがい」であると考えた神谷は、一度は見失った「生きがい」をいかにしてふたたび見いだしたのか――。東日本大震災という「大きな喪失」を経験し、新型コロナウイルス禍という試練のなかにあって、わたしたちが「生きがい」を回復する方法について考える。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
88
若松さんは本当にいい本を解説してくれています。井筒俊彦、小林秀雄、須賀敦子などについても様々読みましたが、この神谷美恵子の「生きがいについて」は私も幾度か読みました。たださまざまな古典をもとにして、生きがいという意味を深く味わいという気がしましたが、この本ではもう少し踏み込んだ読み方をされている気がしました。再度「生きがいについて」を読み直したくなりました。2022/12/11
trazom
81
神谷美恵子さんの「生きがいについて」を若松さんが解説する。私の注目は、神谷さんの宗教観を、キリスト者である若松さんがどう解釈するか。三谷隆正、藤井武など内村鑑三に連なる人たちからあれだけ多くの影響を受けながら、神谷さんがキリスト教との距離を保っていることが、私はずっと気になっていた。期待通り、若松さんは逃げずに踏み込む。神谷さんは、宗教的地平から霊性的地平へと移行したんだと言う。それは内村鑑三の無教会の霊性にほかならず、彼女のキリスト教信仰が宗派的宗教を超えたものへと転回したのだと。本当にそうだろうか…。2021/06/19
tamami
54
雨模様の連休の幾日か、この本を静謐のうちに読みおえることができて良かった。本書のもとになった、神谷美恵子『生きがいについて』の中に記された人々の詩や文章や言葉を、引用された神谷さんの思いとそれを記す若松さんの文章を通して読むことで、彼らの心の繋がりの端にいる自分を感じた事でした。これらの文章のほんの一端でも、今は何も届けることができない「彼」に贈ってあげることができていたら、事態は変わっていたかも知れない。『生きがいについて』冒頭、「目ざめるということがおそろしくてたまらない」全てのひとに本書を贈りたい。2021/05/01
ネギっ子gen
37
古今東西の哲学者、宗教家、詩人、作家、無名の人々の言葉を引用し、「生きがい」とは何かを論じた神谷美恵子の『生きがいについて』刊行から50年以上の年月が――。この書は、神谷の生涯や他作品に照らし合わせた時、作家自身の精神的自叙伝としての姿を現す。誰かのために、何かのために必要とされることこそが「生きがい」であると考えた神谷は、一度は見失った「生きがい」をいかに再び見いだしたのか。原型は、NHK・Eテレ「100分de名著」のテキスト。コロナ危機を経て、<単に加筆したというより、問いそのものを立て直した>と。⇒2021/10/26
k sato
23
ハンセン病患者に寄り添った精神科医・神谷美恵子。「生きがい」とは何かを探究した。極限状況の人々に「生きがい」はあるのか。美恵子は、差別偏見に晒されるハンセン病患者や強制収容所の暮らしを綴ったフランクルを研究する。不自由な暮らしの中に小さな幸せを見出いだす人々。「生きがい」は人生の終着にある目標ではない。今をどう生きるかの源泉だ。そして、「生きがい」は作るものではなく、心の眼で発見するもの。わたしは「生きがい」を見失った。ただ、生かされているだけ。美恵子の教えに沿い、「生きがい」に再会するまで辛抱強く待とう2024/10/10