内容説明
仮性包茎は医学上、病気ではなく、手術も不要である。日本人男性の半数以上が仮性包茎とされている。多数派であるのに多くの男性がこれを恥じ、秘密にしようとするのはなぜか。そのままでは女性に嫌われると一部の美容外科医は言い募り、男性による嘲弄の対象ともなってきた。仮性包茎を恥じる感覚は、どのようにして形成されたのか。江戸後期から現代まで、医学書から性の指南書、週刊誌まで、膨大な文献を読み解き、仮性包茎をめぐる感覚の200年史を描き出す。歴史社会学者による本邦初の書!
目次
序章 なぜ仮性包茎の歴史なのか
多数派なのに恥ずかしい
未開拓な「恥の感覚の歴史」
「包茎」を定義する
性の史的言説分析とは?
第1章 恥と包茎──一九四〇年代半ばまで
1 恥の感覚
包皮をたくし上げる男たち
恥と暴力
包茎商売
恥と知識の不在
2 仮性包茎の誕生
仮性包茎というカテゴリー
仮性包茎に手術は不要
皮が男性にもたらす快楽
皮が女性にもたらす快楽
包茎と短小は関係ない
仮性包茎にきびしい意見
「仮性包茎」は医学用語ではない
3 包茎増加論
「割損」の衰退と包茎
オナニー原因説
包茎からはじまるオナニー
結婚と包茎
4 「ペニスは本来包茎か」論争
銭湯・スパイ・包茎
「露茎が本来」説
「包茎が本来」説
5 包茎の誕生
包茎と皮被り、この似て非なるもの
江戸の包茎
包皮の発見
第2章 包茎手術の商品化──戦後の混乱期から一九六〇年代まで
1 性器整形ブーム
「見つかった」仮性包茎
美容整形の流行
性器整形ブーム
性器整形の失敗
2 短小と包茎
包茎手術をすれば大きくなる
敗戦と短小
陰茎ナショナリズム
3 早漏と包茎
早漏の問題化、夫婦間性行動のエロス化
「早漏」は定義不可能
デリケートな亀頭、包皮という保護膜
4 精神衛生と包茎
神経衰弱と包茎
子どもっぽさと包茎
不良少年と包茎
5 包茎の「常識」のリニューアル
結婚は包茎を治さない
包茎は童貞の証ではない
オナニーは包茎をまねかない
第3章 青年と包茎──一九七〇年代から九〇年代まで
1 仮性も手術が必要論
タイアップ記事の王国
ターゲットとなった仮性包茎
データ不在の包茎記事
手術の「見える化」
2 女の意見、あるいはリアルな女の不在
「包茎は不潔だ」
男が男から金を巻き上げるシステム
ボクらは他の男の勃起を知らない
女の無知を嗤う
3 男の視線──包茎をめぐる男性間ヒエラルキー
「包茎は男にあらず」
最下層カーストとしての包茎男性
見る男、見られる男
包茎をめぐる男性間カーストの表象
女にやられるとムカつく
4 仮性に手術は不要論
手術はコンプレックスを解消しない
「ラップ」としての包皮
肯定のなかにある「しんどさ」
5 包茎手術は「心の手術」論
精神的包茎
マッチポンプとしての包茎言説
第4章 中高年と包茎──一九八〇年代から現代まで
1 「侮蔑」から「肯定」へ──中高年というターゲット
包茎手術を受ける若者をバカにする中高年
急に若者を褒めだす
タイアップ記事と岡和彦
包茎に悩む中高年の登場
仮性包茎の問題化と「放置」の禁止
2 ゴルフ言説──仕事能力と包茎
取引先の股間を見る
ついて回る風呂という「地獄」
3 お棺言説──「死ぬよりつらい」包茎
老人は死して皮を残さず
動機としてのお棺
4 介護言説──ケアされる身体と包茎
「介護される時に恥ずかしい」
羞恥心の奥底にあるもの
5 バカにする女、支える女──男性誌における女性像の偏り
包茎を批判する「女の意見」
包茎の夫を支える「女たち」
終章 包茎手術のたそがれ
1 ひとつの時代の終わり
手術への後悔
手術の不要性と消費者問題
「包茎は過去の商品」
2 男性身体の解放のために
仮性包茎はいつどのようにして恥になったのか
男性間の支配関係とジェンダー不平等
「男の生きづらさ」再考
包茎をバカにしない性教育
新たな男性身体イメージの構築
あとがき
註
引用文献
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