ちくま新書<br> 氏名の誕生 ――江戸時代の名前はなぜ消えたのか

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ちくま新書
氏名の誕生 ――江戸時代の名前はなぜ消えたのか

  • 著者名:尾脇秀和【著者】
  • 価格 ¥935(本体¥850)
  • 筑摩書房(2021/04発売)
  • 盛夏を彩る!Kinoppy 電子書籍・電子洋書 全点ポイント30倍キャンペーン(~7/27)
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  • ISBN:9784480073761

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内容説明

私たちが使う「氏名」の形は昔からの伝統だと思われがちだが、約150年前、明治新政府によって創出されたものだ。その背景には幕府と朝廷との人名をめぐる認識の齟齬があった。江戸時代、人名には身分を表示する役割があったが、王政復古を機に予期せぬ形で大混乱の末に破綻。さらに新政府による場当たり的対応の果てに「氏名」が生まれ、それは国民管理のための道具へと変貌していく。気鋭の歴史研究者が、「氏名」誕生の歴史から、近世・近代移行期の実像を活写する。

目次

プロローグ──人名の常識をめぐって
江戸時代の人の「名前」
今、氏名と呼んでいるもの
江戸時代を起点に
本書の構成
第一章 「名前」の一般常識
1 一般通称の世界
江戸時代の〝下の名前〟
名前の〝お尻〟と頭
人名符号の定着
ルールの範囲内で
名跡化と襲名慣行
名を継ぐ意味
相応しい名前
名は体を表す
2 名前としての官名
大和守という名前
大名の場合
官名の選択
四品相当の官名
無視された〝本来の意味〟
叙任という手続き
侍従以上
参議以上と松平の称号
3 擬似官名とその増殖
国名と京百官
東百官
東百官の変形・増殖
恨めしきまなざし
第二章 「名前」にあらざる「姓名」
1 名乗書判の常識
「名乗」とは何か
名乗はいつ・どこで使うか
誰も知らない名乗
名乗と帰納字
書判の設定
書判とは言うけれど
名乗と印形
2 本姓と苗字
本姓と称するもの
苗字の公称
苗字の私称
武右衛門は気にしない
通称と苗字の関係
村内秩序と苗字
一般の人名常識
第三章 古代を夢みる常識
1 朝廷官位と「名前」
朝廷社会の「名前」
些末な拘泥?
江戸時代の朝廷位階
越えられぬ一線
朝廷の官名
官位相当と家格
京官の定員制限
国司に定員なし
転任と名前
庶民の叙位任官と擬似官名
2 「姓名」の用途と「名前」の正体
「姓名」こそが人名
「姓」といわれたもの
姓尸名
官位は姓名の上に接続する
小倉百人一首
称号と実名
実名を呼ぶ文化
用途に応じて
武家官位の申請手続き
長い〝フルネーム〟は存在しない
朝廷の人名常識
3 官名と職名
古代を夢みる者たち
職名の存在
名実の不一致
第四章 揺らぐ常識
1 正論を説く者たち
正しさはどこにあるか
何右衛門らの起源
官名僭称とその名残
官名を盗むな
紛々たる称
今世の風俗は……
武家のルールにご用心
笑わば笑え
靱負佐になりたい
御名差合
荻生徂徠の提起
名を正せ
山県大弐の正名論
2 人名部位の総整理
「名字」に注意
通称なるもの
苗字・称号・氏・姓
屋号と苗字
名前でも姓名でもないもの
3 官位の褫奪と「王政復古」
解官する常識
解官しない常識
長門宰相から毛利大膳へ
一新と復古
第五章 王政復古のはじまり
1 官位と職名
夢の実現へ向けて
新政府職制の登場
並行する官名と職名
七官制
官等の設定
官位秩序との齟齬
混乱の序曲
徴士の叙位
辞退者との混合
官等と位階
五等官以下の官位停止
2 武家官位の行方
褫奪と復旧
徳川内府から徳川慶喜へ
姓名把握の嚆矢
肥前少将と鍋島少将
武家官位は続く
旗本らの官位と整理
森有礼の議案
無意味な可決
第六章 名を正した結末
1 職員令の波紋
旧官の名に拠て更始の実を取る
百官廃止と職員令
官名は官員のみ
どうすればいいの?
波紋の第一波
実名を通称にもする
藩職員の実名系通称
大参事たちの悩み
通称利用は譲れない
非役有位者の削減
波紋の第二波
何右衛門も禁止?
2 姓尸名の奔流
二つの常識
姓名の人名利用
姓名を申告せよ
これが実名?
藩職員たちの困惑
「官名」は「通称」ではない?
もうわけがわからない
3 正名の破綻と急展開
解決策の発明
苗字+実名の登場
「正名」の終焉
姓名の退場
通称・実名の同質化
「一人一名」への帰結
消えたものたち
第七章 「氏名」と国民管理
1 苗字の強制
平民の「名」
意味不明な苗字自由令
苗字公称価値の消滅
苗字強制令の背景
僧侶に苗字を
苗字強制令の実行
隠された「不都合」
苗字の設定
屋号と苗字と…
2 改名制限という新常識
江戸時代の改名
名前は変わるもの
名跡としての名前
同時に複数の本名
壱人両名の世界
改名制限の開始
改名禁止令
改名規制の緩和
名は体を表さない
エピローグ──人名のゆくえ
本書のまとめ
人名のちゃんぽん状態
忘れられた常識
人名は社会を映す
女性の「氏名」
氏名のゆくえ
明治初年人名の変遷と主な関係事項年表
あとがき
参考文献

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

trazom

122
「江戸時代では「名前」と「姓名」は全く別のものである」ということに驚かされる。名前とは、親が名づけるものでも、一生に一つの掛替えのないものでもなかったという。それを、明治新政府が「姓名」を人名として利用しようと決めた歴史が詳細に綴られている。過渡的な状況や例外の記述も精緻であり、研究者としての著者の姿勢には頭が下がる。ただ、本テーマにさほど深い興味を持っているわけではない私には、ここまで詳しく説明してくれなくてもいいのにと、読みながら少し疲れた気分になったものだが、これは贅沢な悩みか…。2021/07/27

まーくん

119
本書で「氏名」の成立ちが判ると、より時代劇が面白くなるかも。知恵伊豆こと老中・松平伊豆守信綱が伊豆の領主でも何でもない事。遠山の金さんこと町奉行・遠山左衛門尉は金四郎であるが次男とか。氏名の仕組がこんなにも複雑であったとは。官位は職名に非ず名前の構成要素。朝廷の常識と武家を含む一般の常識はかけ離れていた。武家の官位は幕府の一存、朝廷は権力者のなすがまま。維新による権力移行で朝廷の常識が一時蘇るも、下級武士上がりの実力者達により無能な公家は排除され、明治初年の混乱を経て「氏名」は現在に続く”常識”の線に。2021/04/23

へくとぱすかる

80
本書の内容は、学校で教わったこともなく、今まで読んだ歴史の本にも出てこなかった。驚きでいっぱい、目からウロコが何枚落ちただろうか。江戸時代の人名が一見、現代と似ていても全然性格がちがっていた。大石内蔵助の「内蔵助」は個人名だが、大岡越前守の「越前守」は役職名かな、と何となく思っていたら、大間違いだったのである。そういう江戸期の説明だけでもびっくりだが、明治政府のわずか数年間の人名をめぐる変転は、もう混乱の極致。今のわたしたちの「氏名」はその混乱の果てに「誕生」したものだった! さて改めて、名前って何だ?2021/04/16

美東

54
労作である。キーワードは「名は体を表す」である。江戸時代の人名は、現代の我々からすると、はなはだ奇異というかややこしいが、江戸時代から続く芸能~歌舞伎などに、その伝統が残っている。たとえば藤間昭暁→松本金太郎→市川染五郎→松本幸四郎→松本白鸚といった具合に、身分や立場に応じて、名前が変わっていくので、先代のとか注釈つけないと個人を特定できない。江戸時代においては、「体」とは身分であり立場であった。明治維新後は「体」とは個人になる。明治の変革期に夏目漱石や森鴎外が近代的自我をテーマにした理由がよくわかる。2021/08/09

みこ

51
社会制度から一般生活まで様々な変革が行われた明治維新だが、人名に関する概念までもがこれほどまでに大きな変化を遂げていたと驚かされる。江戸時代を取り上げたドラマや小説は専ら武士の世界を描いたものばかりなので、公家と武家で名前の概念が違うことや、それ以外の一般庶民の名前については知らなかったことばかり。この時の明治政府内の混乱は井上ひさしの「国語元年」を思い出す。三谷幸喜が戯曲にしたら面白いものができそう。2021/05/27

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