ちくま新書<br> ことばは国家を超える ――日本語、ウラル・アルタイ語、ツラン主義

個数:1
紙書籍版価格
¥924
  • 電子書籍
  • Reader

ちくま新書
ことばは国家を超える ――日本語、ウラル・アルタイ語、ツラン主義

  • 著者名:田中克彦【著者】
  • 価格 ¥825(本体¥750)
  • 筑摩書房(2021/04発売)
  • ポイント 7pt (実際に付与されるポイントはご注文内容確認画面でご確認下さい)
  • ISBN:9784480073884

ファイル: /

内容説明

英語を初めて学んだ時、文の構造の違いや動詞の活用などに戸惑われた方も多いだろう。しかし世界には、単語を入れ替えさえすれば文意が通じる言語が多数存在する。ウラル・アルタイ語族に属する朝鮮語、トルコ語、フィンランド語、ハンガリー語、モンゴル語などだ。これらの言語は、文の構造ばかりか表現方法、つまりものの感じ方までもが共通している。このことから、言語を軸に連帯をはかろうとする運動、ツラン主義が一九世紀にハンガリーで現れた。それは虐げられた民族からの異議申し立てであり、その水脈は今も生き続けている。

目次

まえがき──この本を書く目的について
ヨーロッパの中の非ヨーロッパ語
ウラル・アルタイ語
ことばの仲間を見つけ出すこころみ
言語同系説と民族感情
言語学者たちの大冒険
『日本語がウラル・アルタイ語に属することの証明』
ウラル・アルタイ説とツラン主義
日本でのウラル・アルタイ学
言語学研究の二つのアプローチ
ことばとアイデンティティ
第一章 ウラル・アルタイ説の出現とその道のり
1 ウラル・アルタイ語族はどこにどう分布しているか
ウラル山脈とフィン・ウゴール語族
アルタイ山脈とトルコ族
トゥングース語と満洲
満洲語はいまも生きている
アルタイ語のなかまたち
2 最初に気がついたのは──スウェーデン人のストラーレンベルク
ロシアのシベリア研究
タッベルトの言語分類
3 ライプニッツの進言からエカテリーナ女帝の博言集への発展
人間にとって世界で最も重要な秘密
パラスの比較語彙集
言語と文学
第二章 言語の同系性を明らかにする方法
1 青年文法学派と音韻法則
考えそのものも表現も文法の中に現れる
音韻法則
エンゲルスと青年文法学派
2 自然科学主義と青年文法学派
青年文法学派の「青年」とは
音韻論受容の実際
アルタイ語の原郷
科学という妄信
音韻法則に対する根本的な疑問
3 「基礎語彙」論のあやうさ
アルタイ語と基礎語彙
言語年代学による水深測量
子どもがことばを変化させる
共通起源のたどりにくさ
朝鮮語から「山」が消えた
「畏れ」もことばを変える
ロシア語に「熊」がない
4 日本人の言語経験を言語類型論に結びつける
朝鮮語は驚くほど日本語と似ている
日本人の言語観が変わる外国語学習
第三章 言語類型論
1 類型論はフンボルトがはじめた
言語学の類型的研究
アルタイ語にはラ行ではじまる単語がない
言語の構造を追う
ベルリン大学をつくったフンボルト
フンボルトの言語類型論
人間の考え方は言語に限定される
外国語学習はまず観察してこそ
2 言語の三つの型
屈折型
膠着型
孤立型
屈折語のやっかいさ
英語を改良しようとした日本の文部大臣
孤立型の「舌足らず」性
3 言語の類型と進化論
類型の発生
フンボルトによる評価
中国語の内的豊かさ
屈折型は膠着型に流れる?
4 孤立語という難問
文法専門の道具
屈折型は膠着型より優れているのか
内的言語形式
5 語族ではなく「言語同盟」を──トルベツコーイ
トルベツコーイという言語学者
貴族だったトルベツコーイ
印欧祖語への疑問符
後置される冠詞
屈折語が優れている、というのは誤り
言語同盟
拡大された民族
6 膠着語に対する積極的評価
トルコ語は単純で論理的
英語の文法はムダで非論理的
変化しないままで変化する
7 言語類型の評価
膠着型言語の「不完全さ」
世界における日本語の位置
日本におけるウラル・アルタイ説論議の第一歩
第四章 日本におけるアルタイ語類型論の受容の歴史
1 音韻法則に幻惑された日本言語学の科学主義
日本での日本ブーム
大野晋という人
『日本語の起源』
言語学以外の学問も学んでこそ
日本の言語学会における類型論的把握への不信
大野晋によるアルタイ語の特徴
母音調和
大野さんのスタイル
「言語学以前に逆もどりする」──服部四郎による批判
服部さんも類型論が無言の前提だった
『日本語の起源』の新版
マルのイベリア・カフカス言語圏説
藤岡勝二によるアルタイ語の特徴
ヨーロッパの初期のウラル・アルタイ語研究
ヴィーデマンの一四項目
青年文法学派のくびき
日本の学問の根本問題
2 科学をたてにとる音韻法則と日常感覚に近い「言語類型論」
アルタイ語には「持つ」がない
ことばが意識を変える
ソシュールの「社会的事実」
3 固有表現へのこだわりこそが
社会的圧力を考察してみると
フェルン・ゼーアーとソヴィエティズム
ウラル語にも「持つ」はない
感性共同体
4 ロシア語にも「持っている」はない
ロシア語はウラル・アルタイの影響を受けてきた
ウラル・アルタイ語どうしだとことばの壁をこえられる
5 ハンガリー語における「片目」
比較言語学は有効か?
片目と一つ目
「片手落ち」
数に関するウラル・アルタイ語の構造的特徴
第五章 ツラン主義の誕生
1 マックス・ミュラーの「トゥラン諸語」
トゥラン語族
形態論的類似
2 トゥランは地理上どこを指すか
遊牧民の文明空間
蔑称としての「トゥラン」
3 ハンガリーに生じたツラン主義
ツラン協会の設立
一九八二年の「日本語の起源」研究会
相撲もツラン文化に由来する
4 テュルク諸族におけるツラン主義
反ロシアとツラン主義
イブラヒムの来日
5 満洲国を好機として
日本の軍部との接触
研究の自由
ウラル・アルタイ語族の政治的独立を
中国におけるモンゴル語ジェノサイド
6 民族は国家をこえる
複数の国家間に分断された民族と言語
言語を消滅させる政策
摘み取られたモンゴル語のローマ字化
弱者の連帯
7 トルベツコーイ──ユーラシア主義への発展
「タタールのくびき」
印欧語は完成した言語ではない
語族という概念の解体
「祖語」から「言語連合」へ
真の言語の「起源」
8 シャルル・バイイとトルベツコーイ
『一般言語学とフランス言語学』
「比較民族文体論」
あとがき
文献一覧

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

kokada_jnet

72
お歳のせいか混乱している様子。「日本語の純粋性を漢字が毒している」が、この先生の、十八番話だったが、本書は言及がなし。チョムスキーについてももずっと批判していた筈だが、この本では部分的に認めている。メインである「ウラル・アルタイ語」については、言語学史のお勉強的な感じで、田中克彦本人がどう思っているかは、よくわからない。終わりのほうで、唐突に大野晋批判がはじまる。多分野の専門家から情報を吸収して日本語起源論を考察した俊才が。怪しげな「南インド起原説」などと主張するようになり、ダメな学者になったとのこと。2021/11/20

へくとぱすかる

62
ことばの世界はロマンチックなだけではなかった。そこは国家や民族の争いに、激しくつき動かされていた。権力のもとで、言語が絶滅の危機にさらされるのは、この今の時代になっても続いている。ときには言語学者が、ことばを守るために意外な役目を果たすこともあるという。こうなると、たとえば日本語の起源をめぐる論の対立など、コップの中の嵐かもしれない、とさえ思える。戦後まもなくフランス語を日本の言葉にしようという意見があったというが、ことばの価値を、日本はまるで大切に思わなかった風潮がよくわかる。考えさせられる本である。2021/05/23

榊原 香織

51
この方の著作は面白い(やや過激) ウラル・アルタイ系の言語は日本語と構造が似てる。似た語同士で連帯を、というツラン主義が戦前の軍部となぜか絡んでしまい、微妙。2023/02/16

活字の旅遊人

35
『ことばと国家』から40年。それをもじったようなタイトルで80代になられた田中克彦先生が世に問う書。第四章「日本におけるアルタイ語類型論の受容の歴史」まで進むと、かなりマニアックというか、日本の言語学界における論争を、生き残った田中先生が解説してしまうという雰囲気。そのあたりを我慢して読み進めれば、現代「国家」群では負け組的なウラル・アルタイ語族への強い愛情を感じることになる。ひとまず僕も手付かずなトルコ語あたりをかじってみたくなった。残念なのは、ウラル・アルタイ間では、文字の互換に乏しいことか。2021/04/30

松本直哉

32
音韻法則から幻の印欧祖語を措定する仮説はロマンティックだが危うさをはらみ、ナチのアーリア人優生説の論拠の一つともなった。唯一の祖語を仮定すること自体無理があり、著者の言うように、系統の異なる言語同士が触れ合い影響しあうと考える方が実情に合っているのだろう(バルカン半島の諸語の例が示唆的)。欧州では仲間外れのフィンランドやハンガリーの言語から説き起こし、テュルク系ツングース系モンゴル系をへて日本朝鮮に至るまで、ユーラシアを広く覆うツランの言語同盟をめぐって、音韻法則ではなく言語類型論からのアプローチが新鮮 2021/08/28

外部のウェブサイトに移動します

よろしければ下記URLをクリックしてください。

https://bookmeter.com/books/17674969
  • ご注意事項