ちくま学芸文庫<br> 眼の神殿 ――「美術」受容史ノート

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ちくま学芸文庫
眼の神殿 ――「美術」受容史ノート

  • 著者名:北澤憲昭【著者】
  • 価格 ¥1,485(本体¥1,350)
  • 筑摩書房(2021/04発売)
  • ポイント 13pt (実際に付与されるポイントはご注文内容確認画面でご確認下さい)
  • ISBN:9784480510235

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内容説明

明治洋画の開拓者・高橋由一が構想し、遂に未完に終わった「螺旋展画閣」(1881年)。時代の力動を体現するこの構想は、あるひとつの言葉、「美術」の生成と軌を一にしていた。由一の事業着想の背景、博覧会・美術館・美術学校など諸制度の誕生、フェノロサと国粋主義運動……。入念な史料分析によって、官製訳語がいかにして成立し、定着=規範化していったか、その過程が明るみに出される。鮮烈なまでに露わとなるのは、「美術」という言葉が紛れもなく時代の分水嶺を象っていたことだ。制度論の視角から結晶化していく概念史。それは、以降の美術史研究を一変させた。第12回サントリー学芸賞受賞。

目次

序章 状況から明治へ
第1章 「螺旋展画閣」構想
1 洋画史の舞台──高橋由一の画業=事業
2 快楽の園の螺旋建築──「螺旋展画閣」構想
美術館か博物館か 見世物としての展覧会
3 水と火の江戸──建設地について
江戸の都市感覚 東京防火令
4 武家の美術──江戸的なものと近代
作画意識の伝統と近代 土蔵造りの町 展画閣建設運動
5 螺旋建築の系譜──影響源【一】
さざえ堂 五百羅漢寺の三匝堂
6 未遂の博覧会計画──影響源【二】
「螺旋展画閣」のオリジン 江戸の人造富士 大学南校の「博覧会」計画 螺旋都市 中心の高み 文明開化の塔 バベルの塔美術館
7 時代の孕むちから──幕末明初の文化的混乱
しあわせなバベル バベル的鑑賞法 異文化としての野蛮 「美術」未生以前
8 二人のF──「螺旋展画閣」構想の背景【一】
フォンタネージと工部美術学校 実用技術としての西洋画法 フェノロサの来日
9 明治一四年の意味──「螺旋展画閣」構想の背景【二】
殖産興業政策の転換期 国粋主義の台頭 洋画の冬ごもり
10 反近代=反芸術──美術という制度
古典の制定 暗い谷間 反近代と「美術」 反芸術と美術の制度性
第2章 「美術」の起源
1 文明開化の装置──博物館の起源
博物館と「美術」 「博物館」の起源 物産会と博覧会
2 美術への胎動──博覧会の創始
博覧会と博物館 文部省博物館と「美術」 「歴史」という制度 公開の思想 自然と人工 眼と分類 ウィーン万国博覧会
3 「美術」の起源──翻訳語「美術」の誕生
書画というワリツケ 翻訳語「美術」 【文庫版補論】
4 「芸術」と「美術」──博物館の分類
ワグネルの提案 博物館と「芸術」 美術か芸術か 博物館の「美術」 分類が孕む意味
5 眼のちから──内国勧業博覧会の創設
博物館の礎石 見るための制度 眼の文明開化
6 眼の権力装置──監獄と美術館
ガラス・ケースの意味 博覧会と審査 一望監視施設 「美術館」の位置 「洋画」の台頭 天皇と博覧会
7 すべてであろうとする「美術」──「美術」概念の限定
芸術という意味の「美術」 視覚芸術としての「美術」 博覧会の「美術」 博覧会と「螺旋展画閣」構想
8 美術の揺籃──内国勧業博覧会と「美術」
博覧会の列品分類 内国勧業博美術館の内実 国粋主義と「美術」の制度化
第3章 「美術」の制度化
1 建築=制度への意志──明治一四年の由一【一】
背伸びをする子ども 第二回内国勧業博覧会 不審な行動 東北行 三島通庸への共感
2 天の絵画──明治一四年の由一【二】
空間の生成 写真と由一 風景画の原初 由一にとっての「美術」 「うつす」ということ 天の絵画 GodとNature イデーとしての「美術」 神の一撃
3 〈つくる〉論理──『美術真説』のフェノロサ
由一対フェノロサ 瀕死の日本絵画 『美術真説』の眼目 「つくる」ということ 建築への意志 詩画限界論 文人画と建築 絵画の改良 「美術」と西洋中心主義 新古典主義者フェノロサと「美術」の制度化
4 統合と純化──「日本画」の創出と「絵画」の純化
「日本画」というフィクション 日本画
洋画 「日本画」をめぐる諸制度 「日本画」の原型 内国絵画共進会 「絵画」概念の純化 書ハ美術ナラズ 美術教育と国粋主義
5 美術という神殿──「美術」をめぐる諸制度と国家の機軸
フェノロサの提案 美術協会の設立 古典の創出 ショウ・ケースの意味 施設の必要性 講演というメディア 新宮殿と美術 美術学校 岡倉天心の美術局構想 美術史というフィクション 影の美術局 帝国博物館の設置 帝国博物館の分類 「美術」という分類名の意味 国粋主義運動の帰結 もうひとつの国家
6 パンドラの匣──空虚という名の希望
批評家フェノロサ 国民統合と「美術」 天皇の美術 純粋美術と美学 「美術」と「芸術」 国粋主義のアポリア フェノロサの変節 文展という制度的決着 厄災と希望 高橋由一の美術取調局構想 美術館建設運動 空虚という名の希望
終章 美術の終焉と再生──日本語「美術」の現実
由一と劉生 アヴァンギャルドと「美術」の現実

主要参考文献・史料集
初版あとがき
定本の刊行にあたって
文庫版あとがき
解説 (足立元)
文庫版解説 (佐藤道信)
人名索引

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

koke

15
『日本近代文学の起源』の美術版と理解した。まずある種の物質的なもの=広い意味での制度ができて、それが内面を作った。しかしそのような起源は忘却されたという話。逍遥・鷗外世代と芥川・谷崎世代の違いに当たるものが、本書では由一・黒田世代と劉生世代の間に認められている。前者にとって文学/美術という制度は構築すべきもの/目の前で構築されたものだが、後者にとってそれは所与だった。私も『起源』をヒントに美術を考えたいと思っていたのだがすでに模範解答があったとは…。2025/06/22

Ex libris 毒餃子

11
「美術」の概念がどのように日本で形成されていったかを個人と政府の動きから論じた本。筆者のイデオロギー性を排し、史料と作品から読み解いていく。丁寧な記述で面白かった。前評判通り、美術史研究の傑作であることは間違いない。2021/10/09

浅香山三郎

10
高橋由一の螺旋展画閣の構想を起点に、近代日本における美術・芸術の制度化、具体化の過程を辿る。著者の仕事の意義については、足立元氏による解説の腑分けが分かりやすい。佐藤道信・木下直之・高木博志といつた人々が次々に制度としての文化・美術の国家による制定の問題を問ふた1990年代の流れにおいて「日本近代美術史の岩盤に制度論という穴を穿つ、掘削機の先端部分」をなすと本書を位置づける。教科書的には、高橋由一の画家としての側面しか伝へないが、近代美術の具体化の先駆者としての役割を本書で初めて知ることができた。2024/10/29

kana0202

5
30年以上前の本だが、美術史研究作家研究の前提として非常に意味があるはず。こうした本が文庫で読めるのはありがたい。由一の螺旋展画閣構想を端緒に、そして一つの特権的イメージとして明治以降の近代日本がどのように「美術」を受け入れていったのかを探る。いま美術館で「アート」(!)を見ること、そしてそこで行われている日本画、洋画などのジャンル分け、さらには「日本美術の〜」と題される多くの展示について再考し続けるための一つの指針。2023/07/01

kentaro mori

4
⚫︎西洋画が美術になってゆく過程は、「美術」が芸術として自覚されてゆく過程-西洋から翻訳によってもたらされたこの概念が、実用技術と袂を分かって、芸術として確立されてゆく過程でもあったのだ。しかも、その過程の初めにおいて主導権を握っていたのは西洋派ではなく、状況を牛耳る国粋派であった。具体的にいえば、国粋派は、美術ジャーナリズムを形成し、美術家たちの協会をつくり、また政府にはたらきかけることで展覧会や美術学校を開設するなど、総じていえば、美術のための諸制度を築き上げることを通じて、芸術としての「美術」を確立2025/03/31

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