内容説明
唾棄すべき軍国主義なのか? それとも誰もが持つべき愛郷心なのか?
かつて「21世紀には滅んでいる」といわれたナショナリズム。ところが世界はいまも、自国ファーストや排外主義にまみれている--。今年の元旦に放送され、話題となった特別番組「100分deナショナリズム」。4人の論客がナショナリズムを読み解くための入り口となる名著を持ち寄って議論した。大澤真幸氏が『想像の共同体』(ベネディクト・アンダーソン)を、中島岳志氏が『昭和維新試論』(橋川文三)を、島田雅彦氏が『君主論』(マキャベリ)を、ヤマザキマリ氏が『方舟さくら丸』(安部公房)を。この番組をベースに追加取材をして編んだ本書は、これら4つの作品を通して「国民・国家」とリアルな「わたし」との関係を考えてゆく。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
おさむ
39
今年の元旦に放送された4人のゲストによるナショナリズムの討論はそれぞれが1冊の本を取り上げて、それを補助線としながらの多面的な展開が知的好奇心を刺激した。そんな良質な番組に加筆してまとめたのが本著。普段何気なく「私たち」という言葉を使う時、自分はどこまでの範囲を認識しているのか?。群れの心地良さに安住して精神的な自律を失っていないか?安易な二元論に陥ってはいないか?‥‥。多様な視座が提示され、自分の頭で考えることを求められる気がしました。2020/09/03
ころこ
31
いつものように紹介者4人の力量が比較できて興味深い企画です。大澤真幸による『想像の共同体』の解説が優れています。ナショナリズムの3類型のうち出版資本主義はラテン語から自国語に変わっただけでなく、俗語革命があったと掘り下げています。言うまでも無く、俗語革命は明治日本の言文一致を意識しています。2類型目の植民地ナショナリズムはクレオール役人(安部公房は晩年クレオールに興味がありました)の巡礼という極めて宗教的な特徴があったのではないかと指摘します。3類型目の公定ナショナリズムで日本の問題に焦点を当てます。ナシ2020/10/22
nbhd
25
男性性研究本を重ねるうちに、再読の必要があると思って手にとった。男性の、加害者性と被害者性をクリアにするためにはどうしたものか?という問題意識で。大澤真幸さんは「想像の共同体」を紹介しながら、「我々の死者論」を展開する。曰く、我々の死者(先祖)の存在への思慕を抜きにして、子孫に思い至ることはできない、と。話は加藤典洋「敗戦後論」の読解へ進む。大澤さんは、アジアの戦死者を弔う前に日本の戦死者=英霊を弔うべきとした、ややこしげな加藤の論を丁寧に噛み砕く。ねじれた我々が子孫を想うためには、加害者であった日本の2021/03/12
ジャズクラ本
20
◎読み友さんがこの100分de名著シリーズを読んでいたこと、そしてナショナリズムについてしっかりとした定義めいたものを学んだ経験がないため手に取った。結論から言えばナショナリズムの定義などどこにも存在しない。様々な思想家や小説家がそれぞれの観点で掴んだイメージを具象化したもので、その定義も様々である(但し僕的には冒頭のアンダーソンの『想像の共同体』の定義付けがもっとも腑に落ちたし納得した)。また、ナショナリズムの危険性と共にその存在の重要性にも気づくところがあった。NHKの出版物にはハズレが少なくて良い。2020/10/30
無重力蜜柑
15
短いページ数で平易に名著を解説するNHK出版の有名シリーズ。クオリティには割と定評のあるシリーズだが、ナショナリズムをテーマに4冊の本を4人に解説させた本書は章ごとの落差がひどい。大澤真幸の『想像の共同体』と中島岳志の『昭和維新試論』はテーマと本の内容を結び付けて中立的に解説しており良い。『昭和維新試論』は既読で『想像の共同体』は積んでいる。後者は近いうちに読むつもりだが、前者も全然読めていなかったことが分かったので読みたくなった。一方、島田雅彦の『君主論』とヤマザキマリの『方舟さくら丸』は酷い。2023/05/17