内容説明
2014年、イスラエルのネゲブ砂漠。秘密軍事施設には“将軍”の命令により、ただ一人の囚人Zが長年監禁されており、一人だけの看守に見張られている。ユダヤ系アメリカ人の学生からイスラエルの諜報員になり、自国の権力者に監禁されるに至った囚人Zの数奇な人生とは──。Zの存在を隠したまま何年も意識不明でベッドに横たわる将軍の回想、パレスチナ難民の青年の受難、パリで恋に落ちたZとウエイトレスのかつての逃避行。幾つかの物語が循環しつつ重なり合い、悲哀、諦観、希望を繰り返しもたらす不条理なパレスチナ紛争と、それに翻弄されながら生きる人々の姿を描き上げる。『アンネ・フランクについて語るときに僕たちの語ること』がフランク・オコナー国際短編賞受賞、ピュリッツアー賞最終候補となった著者による傑作長編!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
119
ユダヤ系米文学第三世代の作者。半分当事者であるがゆえに踏み込める問題点と客観性。それでもなお、自らがユダヤ系であるがゆえのパレスチナへの配慮がある。イスラエル側のZがうける罰や将軍が置かれる意識の狭間にそれを思う。男女二人がディナーをするトンネルは、どちら側にも通じているが、二人はセンターのテーブルから動かない。また将軍のいるlimboは出口のない場所だ。パレスチナとイスラエルの困難さの象徴だろうか。また、limboという概念はカトリックに通ずるもので、それも何かを象徴しているようにも思う。 2022/01/13
ケンイチミズバ
107
「市場がからっぽになる」とは、ガザからロケットを1発でも発射すればその10倍の反撃がイスラエルからあることを知らなければ意味不明だろう。みんなが報復を恐れて市場から逃げ出すくらいの意訳は付け加えてもよかろうに。具体的な映像が浮かばないストレスの溜まる作品。後からそういうことかとわかり、戻って読み返す。「テーブルに置かれた新聞を触りたくない」なる訳もコロナを連想するが勿論違う。毒物の添付の可能性、暗殺を仄めかすには直訳過ぎる。翻訳で勝手な肉付けが許されないのはわかる。でも作品の世界観に浸れないではないか。2021/05/12
かもめ通信
28
ユダヤ教正統派のコミュニティに生まれ、敬虔なユダヤ教徒として育つも、学生時代にイスラエルを訪問したことがきっかけで信仰を捨てたという著者が、和平への願いを託しつつ描くのは、ネゲブ砂漠にあるイスラエルの秘密軍事施設でたった一人、長期間収監されている囚人Zの物語。悲劇を描きながらも愛と信頼を失わない物語は美しい。だが現実はどうだ。ガザはリフタは…。いつかあの地中のトンネルが、平和の尊さと歴史を語り継ぐ遺跡として人々に紹介される日がくるならば。そう思いはするけれど。いろいろ考えさせられる物語であることは確か。 2021/06/14
星落秋風五丈原
28
複数視点による物語。ガザ停戦のタイミングで読む。2021/05/24
けんさん
18
『中東紛争に踊らさせた諜報員の数奇な人生』 パレスチナ紛争を背景に、紛争に振り回されたイスラエルの諜報員を巡る人達の物語。時間や場面がよく飛ぶので、背景知識があれば、もっと楽しめたかな〜。2021/07/10
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