内容説明
現代のリベラルは「すべての個人が自由に生き方を選択できるよう、国家が一定の再分配を行うべきだ」と考える。リベラルは17世紀ヨーロッパの自由主義から思想的刷新を重ね、第二次世界大戦後は先進諸国に共通する政治的立場となった。しかし20世紀後半の新自由主義や近年のポピュリズムなどの挑戦を受け、あり方の模索が続く。本書は理念の変遷と現実政治の展開を丁寧にたどり、日本でリベラルが確立しない要因にも迫る。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
73
どんなイデオロギーも、受け取る側の政治経済歴史的立場の違いで解釈される。リベラリズムもファシズムとの戦いを経て西側世界共通の理念にまでなったが、グローバル化や情報化など時代の変化に対応できなくなりつつある。そんなリベラル政治への不満が権威主義やポピュリズムの台頭を招いた欧米の状況を見ながら、日本政治におけるリベラルの可能性を理論的に再検討する。インサイダーとアウトサイダーを超えた利害を集約するため、リベラルを再構築せねばとの結論は正しいと思う。そこまで広範な政治勢力を結集できる政治家は出てきそうにないが。2021/03/22
Sam
52
一口に「リベラル」といってもその意味するところは実に多様でありきちんと理解できている自信は全くなかったが、本書ではその出自や歴史、新自由主義などとの政治的・経済的な政策含意の違い、現代のリベラルが直面している多方面からの挑戦、日本におけるリベラルの位置付けの特殊性といったものを手際良く整理してくれており、とてもよく理解することができた。「価値の多様性を前提に誰もが自由に生きることを認め、国はそれを支えるべく一定の再分配を行う」というリベラルの理念が普遍的かつ可能性に満ちたものであると改めて感じた次第。2021/08/27
kei-zu
32
「新自由主義」と「リベラル」。ともに「自由」という言葉を内在しながらその語の使われる局面は、正反対と言ってよい。 本書は、「リベラル」の語に込められた意味を歴史から解きほぐし、世界の潮流の分析を経て、現在の日本の状況を説明する。 「おわりに」で著者は、現在におけるリベラルの語の使われ方に対し「あまりの混乱ぶりに目が眩む思いがした」と書いている。 本書は、コンパクトなサイズで思想的・歴史的な流れについて概観できる。2021/11/02
venturingbeyond
28
「リベラル」を自称する人は数々あれど、それぞれが異なる規範的立場を「リベラル」と称し、何を「リベラル」とするのか、その核心がはっきりしない鵺のように思われがちな「リベラル」概念を、まずは20世紀の社会権保障を担う福祉国家の構想とともに確立されたものとして定置する。そして、WW2後のリベラル・コンセンサスの黄金期から、「リベラル」が退潮していく20世紀最後の四半世紀への移行を、社会構造の変化との連関の下に的確にまとめ、現代における「リベラル」変容の見取図を示し、その可能性を説く一冊。2021/02/27
おおにし
26
(読書会課題本)日本のリベラルは護憲・平和主義を標榜する”進歩的知識人”たちのグループという印象で政治的勢力になれていないと感じる。戦後、保守政党が日本型福祉国家を導入してそれなりの福祉社会を作り上げてきた日本では、真のリベラル派が育たなかったことが原因の一つだ。グローバル化による福祉国家破綻後も、リベラルという言葉は政界再編の離合集散のシンボルでしか使われていないところに日本リベラルの悲しい状況がある。欧米では排他主義ポピュリズムがリベラル勢力を脅かしているが、日本では果たしてどうなるだろうか。2022/05/02