内容説明
東日本に大津波が押し寄せたあの日、濁流は福島第1原子力発電所をも飲み込んだ。全電源を喪失し制御不能となった原発。万策尽きた吉田昌郎所長は、一人一人の顔を眺めながら共に死ぬ人間を選んだ――。遺書を書き、家族に電話をかけ、嗚咽する人。現場に背を向けた人……。極限で彼らは何を思い、どう行動したか。絶望と死地を前にして揺れ動く人間を詳細に描いた、迫真のドキュメント。(解説・池上彰)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
gonta19
140
2018/3/15 Amazonより届く。 2019/5/21〜5/27 あの事故から8年。凄まじい記録である。現場の人たちの揺れ動く心、政府首脳の無能さ。今、大きな事故があっても、こうしてそれなりに暮らしていけている我々。全日本人が読むべき本。所長が吉田さんでよかった。ご冥福をお祈りします。 2019/05/27
しいたけ
128
「はじめに」で、英雄や美談を書くのではないと断ってある。「そもそも被害がさらに拡大しなかったのは単なる偶然に過ぎない」とも。正確な証言によって構築された記録であるはずの本書。それが人としての職務を全うした男たちの、崇高なドラマに仕上がってしまっている。所長の吉田昌郎は後に「事故を止めたのは最終的に人の力だった」と語っている。「単なる偶然」と突き放して見せた編著者は、丁寧に丁寧に「人の力」がもたらした奇跡を記録する。「俺と一緒に死ぬのは誰だ」。この答えを後に述懐した友へのメール。漢の優しさが堪らなく沁みる。2018/03/06
おしゃべりメガネ
91
読む前からわかってはいましたが、やはり読んでいくなかで、涙が止まらなくなり、ラストでは涙が溢れ、まともには読めなくなり、何度も中断せざるを得なくなり、涙を拭いながらの読了となりました。数ある震災関連書籍の中でも、ここまで真実に迫った作品は他に類をみないのではないかと。やはり胸が痛むのは現場と本部、官邸の意識の違いがあらわになるトコですね。本書を読み改めて吉田所長はじめ電力社員の使命感、責任感の強さに敬服いたします。被災された方はじめお亡くなりになられた方への追悼の意を表し、決して風化させてはなりませんね。2025/03/08
rico
89
元は共同通信が配信した連載記事。あの時福島第一原発で何が起きていたのか、当事者たちの証言に基づくドキュメント。実名ゆえの限界もある。口にしづらいこともあるだろうし、自分自身への正当化バイアスも働く。それでも、多くの証言を重ね合わせることで見えてくる貴重な真実がある。命がけで収束に向けて戦った人たちには、ただただ頭が下がる。でもそれは、あの事故への免罪符にはならない。東日本壊滅という最悪の事態までほんの紙一重だったのだ。原発を動かし続けるなら、必要といううなら、この事実にまず正面から向き合ってほしい。2021/04/08
かっぱ
38
かつて「原発安全神話」というものがあった。07年に保安院が10年間の運転延長を許可。町の企画調整課長は事故後に振り返り「各部門の担当者の話を聞くときっちりやっている。でも、小学生みたいな目線で『大きな津波が来たらどうするの』とか『物が倒れたらどうするの』とか、素朴に問いかけるべきだった」と語る。3号機の水素爆発で怯えて帰ってきた運転員。会議室のドアの閉まる音で飛び起き「これ爆発ですか!」と何度も大声で問いかけるその膝はがくがくと震えていた。想定される最悪のシナリオは東日本壊滅だった。いまも廃炉作業は続く。2018/07/20