内容説明
日本は「核兵器のない世界」を望んでいるだろうか。原発などの「核エネルギーのない社会」を本当に目指していると言えるだろうか。本書は広島への原爆投下から3・11以後の現在に至るまでを歴史的・思想史的にたどりながら、安全保障の前提としてアメリカの核兵器に依存し、政治・経済上の要請から原発と核燃料サイクルを維持するという、核エネルギーを利用するシステムがいかに日本社会に根を下ろしているかを明らかにする。そこから浮かび上がる〈核〉と日本の現在地とは?
目次
はじめに
第一章 核時代を批判的に考察する六つの論点(近代の病と巨大科学技術/第一の論点:開発主義と構造的差別/第二の論点:廃棄物と未来責任/第三の論点:民主主義と管理社会/第四の論点:確率的リスク/第五の論点:男性性と女性性/第六の論点:メディア文化の蓄積/論点が集約された核燃料サイクル計画)
第二章 被爆国が原発大国になるまで(敗戦から原子炉の導入まで/原発大国への助走/問題噴出の時代/チェルノブイリの衝撃/相次ぐ事故の時代)
第三章 日本と核の現在地――3・11以後(民主党政権時代/自民党政権下の再稼働/フクシマを語るということ/国民統合と差別)
おわりに
主要参考文献
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
hatayan
41
被爆国が原発大国になり、3.11を迎えた後再び原発推進に舵を切ろうとする過程をおさらい。福島原発の事故を引き金に盛り上がった原子力に批判的な動きは、自民党政権が復活した2012年以降、潜在的な核抑止力を保持しておきたいとする国策と結びついた原子力ムラの強い政治的権力により後退を余儀なくされています。個人的には、東浩紀氏が福島を「ダークツーリズム」の実験地として観光地化しようとするもほぼ黙殺されたこと、3.11後の福島を思わせるディストピアを描いた吉村萬壱『ボラード病』を知ることができたのが収穫でした。2021/04/18
かんがく
9
一章が理論、二章が歴史、三章が時事。タイトルの「精神史」について深く話している一章が一番面白かった。原子力を巡る議論がもつ様々な矛盾点や対立軸が丁寧に説明されていて、入門書として最適だった。2024/01/30
どら猫さとっち
8
3.11から、今年で10年。東日本大震災、東電福島第1原発事故後、また戦後から、原子力発電、核のない社会はどのように論じ、語ってきたかを検証している。今ではあまり、原発の恐ろしさや弊害について論じていないが、本書で改めてそのことを考えなければならないことを痛感。コロナ禍に現在、また問題だらけの東京オリンピックが取り沙汰されている今、本書を読むことは、とても重要だ。2021/03/20
Mealla0v0
3
核時代の社会理論、被爆国から原発大国への歴史、3.11後の核をめぐる試論の3章仕立て。新書とはいえ重厚な議論が展開されている。核を生み出した近代科学技術、構造的暴力を内包する開発主義が原発を設置したこと、このような巨大技術は厳重な管理が必要であるが、それが社会全体の管理へと拡大されていくということなど、広く問題が検討されている。そして、実際に被爆国であった日本がどのように原発を受容し、あるいは積極的に設置していったのかが歴史的に整理されている。最後に、3.11後の核をめぐる問題を批判的に考察している。2021/07/08
ア
3
第1章で核時代を批判的に見るための論点、第2章で終戦から2010までの日本の原子力政策や論稿、第3章で3.11以後が扱われる。指摘を投げっぱなし感、説明不足感がいくつかの箇所であったが、日本の原子力・核政策を見るためのとっかかりとして有用。2021/03/12