内容説明
標高千五百メートルの麗峰の中腹に建つ『ユートピア』、そこは死を間近にした人々が最高で最期の治療と看護を保証された豪華なホスピス。入居者は元女優の凛子や著名なエッセイストの水原など莫大な費用が払える特別な人間ばかりだった。看護師長の千香子はオーナーの中条に見込まれ独身のまま住み込みで務めていた。ある日、季節外れの嵐によって道が寸断され『ユートピア』は孤立してしまう。千香子を含めその場に残されたスタッフ全員が中条の部屋に呼ばれる。そこで彼が話し出したのは、とんでもない提案だった。翌朝、駐車場でスタッフの一人が他殺体で発見される……! 大人のサスペンス・ミステリ―完結編!
「あえて本文庫が白兎シリーズという名称を使わない理由もわかる。(中略) それにしても、何とも不思議な魅力に満ちた連作であることか」(解説:池上冬樹)
(本作は、長らく在庫切れだった『白兎4 天国という名の組曲』(講談社)を著者が全面見直しし、加筆修正、改題の上文庫化したものです)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
いつでも母さん
170
シリーズ完結編は超高級ホスピスでのクローズドサークル殺人事件だった。はぁ。お金とか愛憎とか、命とか…いつの世も人の欲は限りが無いと突きつけられるのが何だか虚しい。シリーズ通してあさのさんが描きたかったのは『生きることが希望だとは思わないけれど、死もまた救済にはならないこと』読者に委ねたっていわれてもねぇ(汗)白兎と言う少年は案外この世界に沢山いて「この世にいてはいけない魂を」あるべき場所へ還してくれているのかもしれないなぁ。優しくて哀しくてちょっとだけひんやりのシリーズ、いつか私も白兎に会えるだろうか。2021/02/28
ちょろこ
125
シリーズ4の一冊。今作は孤立した終の住処「ユートピア」での殺人事件。白兎の正体と併せてちょっとしたサスペンスを楽しめた最終巻。間もなく迎える死を待つ場所で交錯する人々の思い、根っこに抱えた埋み火なるものを存分に盛り込み、最後に意外な展開で締めくくるのが良かった。まさに人の心に棲みつくもの、それが一番心を脅かす。白兎の存在が時に現実味を帯びるように色濃く、時に今にも消えそうな薄さへと変わる、この対照的な魅せ方描き方も幻想感溢れて好き。白兎の存在に込められた、作者の生と死への想いもじんわり沁み渡るのも良い。2022/09/15
タイ子
80
最終巻にしてクローズド・サークルの殺人事件。最高の場所で最後を迎えたいと富裕層が入院するホスピスが舞台。嵐によってがけ崩れが起き施設は孤立状態に。そんな中、命短いオーナーによって告げられた驚愕の言葉は50億の財産を看護師長とスタッフに分けるというもの。スタッフが殺され、オーナーも殺される。犯人の意図と目的が意外な繋がりを見せるところが面白い。白兎が現れることでファンタジーの要素が大きくなるこのシリーズだが、常に生と死を問いながら人の生きざまを伺ってきた白兎の正体を知ることで現の世界さえ感じてしまう。2021/04/03
坂城 弥生
48
帯に「連続する殺人」とあったけど、わりとゆっくり長閑とも言えるペースで話しが進んでいると思っていたら急転直下な展開でした。2021/04/06
Nyah
45
『ユートピア』は入居金1億円の山中にある豪華なホスピス。死を間近にした人々が最高で最期の治療と看護を保証された場所。看護師長の仙道はオーナーの中条に見込まれ独身のまま住み込みで務めていた。ある日嵐により崖崩れが起き、道路が遮断され『ユートピア』は孤立。オーナーはスタッフを集めて自分の死期が近いから遺産を分配したいと話す。クローズドサークルの中で起きる殺人事件。/『白兎4 天国という名の組曲』(講談社)を加筆修正したものだが、白兎4は未読だったのか、全く覚えてなかった。真っ白な薔薇は罪の印。薔薇は薔薇は〜‥2021/07/18