内容説明
カムチャツカの街で幼い姉妹が行方不明になった。事件は半島中に影を落とす。2人の母親、目撃者、恋人に監視される大学生、自身も失踪した娘をもつ先住民の母親……女性たちの語りを通し、事件、そして日々の見えない暴力を描き出す、米国作家のデビュー長篇
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
buchipanda3
140
ロシアの東の果て、カムチャツカ半島の今を生きる女性たちを描いた小説。幼いロシア人姉妹の失踪事件は、国の体制が変化した後もその閉じた土地に残る古い価値観に傷つけられている女性たちの複雑な心情に影響を与えていく。先住民や自立した女性への偏見、自身の閉塞感と欲望、そして喪失の苦しみ。アメリカ人の著者がなぜロシアを舞台にと思ったが、本作の主題は場所に依らないことに気付く。物語では各篇の人間関係が繋がり合う。一面的な視点で単純化せず、根にあるものがより現実的に描かれていた。人は過去の苦しみと喜びを抱え、そして前へ。2021/02/21
chantal(シャンタール)
101
「消失の惑星」とは?首都モスクワから7千キロ離れたカムチャッカ半島。日本の方がずっと近い。半島そのものが1200キロもあり、本土と繋がる陸路はない。北には広大なツンドラが広がり、多くの先住民族がいる。作者が「消えてしまうには理想的な場所」と言うのもうなづける。幼い姉妹の失踪から始まる物語はこの半島で暮らす様々な女性たちの物語を繋いで行く。曾ての祖国が無くなってしまうこと、民族間の埋めることの出来ない溝、厳しい冬。何もかもが未知のもので、こんな世界もあるのかと、オホーツク海を漂うような気持ちで読んでいた。2021/05/28
アキ
101
カムチャッカ半島に生きる4つの家族の人々を巡る13章は、それぞれが短編集のように完成され、少しずつ重なり合う人生のように連なってある結末に至る。船か飛行機でしか移動できない地区、モスクワと9時間の時差があり、旧ソ連の共産党時代と移民が増えた資本主義導入後の社会、そして先住民とロシア人とが混在する。この半島はどこへ行こうと知り合いに出くわしてしまうほど狭く、それでいて娘2人を失ってしまう程広い。広くて狭い半島の閉塞感が女性の暮らしや感情に影響を及ぼしている様を著者は淡々と描く。デビュー作だが完成された世界。2021/03/07
(C17H26O4)
90
エピローグのような7月の章は描かれた方がよかったのだろうか。単純に希望として捉えるべきか。すっきりしない読後ではある。ラストの先を考える。どちらにしても女性たちのおかれた環境、周囲の状況に関していえば、その先もほぼ変わることはないのではないだろうか。カムチャツカ半島の海沿いの小さな街で起きた幼い姉妹の行方不明事件を軸に、そこに暮らす女性たちの苦悩やあがきが次々と描かれる。狭いコミュニテイ内での民族差別、女性差別、世代間の分かり合えなさに閉塞感を感じ続けながらの読書だった。 2021/06/17
アナーキー靴下
89
幼い姉妹の失踪事件が結びつける連作短篇。本の帯は今後変わっていくのだろうけど、今手もとにある本にかかっている帯(読メにも表示されている帯)の、「この痛みから、目を背けることはできない」という言葉は、登場人物を結びつけるもう一つの線。逃れられない、自業自得の呪い。現実的な確率や責任割合など関係なく、ほんの僅かでも、その結果を避ける選択が取れる可能性があった、その事実が、痛みとして自身を責め苛む。何かしらの別れを抱えた女性たちは、物理的な消失時点ではなく、消失を自覚したとき、鮮やかな眩暈を経て、歩き始める。2021/03/24
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