内容説明
日本の外交官と外務省の隅々までを知り尽くす佐藤優が、これまでに接した当事者のなかで能力、実績、人格ともに最高に評価するのが吉野文六氏。
吉野氏は、沖縄返還において日米両政府間に密約が存在したことを、2006年に日本側の交渉当時者として初めて明らかにした。外交官の「職業的良心」はいかに生まれ、形成されていったのか。
・生い立ち、旧制高校時代、帝国大学での学生記者経験、行政科・司法科・外交科すべて合格した高等文官試験。
・外務省へ入省後、真珠湾攻撃前夜の太平洋を横断、たどりついた北米大陸での見聞、動乱の欧州を視察してベルリンへ。
・松岡洋右外相、野村吉三郎駐米特命全権大使らのエピソード、各在外公館でおこなわれていた諜報活動、またソ連のドイツ侵攻時に、在ベルリン大使館から南方へ避難した大島浩大使からの下された決死の司令。
・1945年5月ナチス・ドイツ第三帝国が崩壊する瞬間に立ち会う。そして命を賭してシベリア鉄道横断からの帰国。
1941年から1945年にかけ、激動の欧州を目撃した青年外交官の物語。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
breguet4194q
80
吉野文六というスーパーエリートが、ナチスドイツの崩壊前後を、現地での体験をもとに証言してます。当時の外交文書も掲載され説得力があり、暗雲立ち込めてくる社会状況がわかりやすいです。また、外交官の視点から見えてくる人間模様は、細かく描写されており面白い。インタビュー形式も織り交ぜているので読みやすく、当時のリアリティが肌身で感じられます。幼少期からの成長過程も掲載されてるので、青年期に培った思想哲学が、ドイツ外交官時代や、その後の生き方を決定していることまで掘り下げて論説されてます。読み応えのある一冊です。2021/10/03
Isamash
31
佐藤優と吉野文六(元西独大使)の対談本。吉野はソ連に攻め込まれた時ベルリン大使館に勤務。沖縄返還時の密約の存在を認めた稀有の外交官とのこと。本書では、吉野の半生(敗戦時まで)を佐藤が聴くかたち。若い吉野がドイツに赴任する際、ハワイから米国横断してスペイン経由で独に赴任。外務省の教育的措置に佐藤は感心。ソ連軍迫る中、邦人安全確保もせずに大島ドイツ大使は吉野らを残しベルリンから物見遊山で田舎に疎開。空襲激しい中、吉野に2回酒を運ばせたともいう。ヒトラーに心酔し日本を戦争に巻き込んだ指導者の責任感の無さに唖然。2022/08/23
k2ro
7
学校で英米流経験主義哲学を学んだ若い外交官が目の当たりにするナチス・ドイツ第3帝国の崩壊。戦後の平和な国で生活する我が身には想像し得ないカタストロフィ。 抽象的観念から生まれる愛国心は,国家と国民に多大な災いをもたらす。真の愛国心とは,自分の愛する人,具体的に触れ,抱きしめることができるパートナー,子供,親たちに対する具体的愛情の延長線上にしか生まれない。自分の中に原理原則を持っている人は格好良い。 極限の状況で自らの行動の原則を形作るのは教養であり、愛情である事を教えられる。2021/04/09
Yasuhisa Ogura
3
第2次大戦中、ベルリンの日本大使館に勤務していた外交官の吉野文六氏に佐藤優氏がインタービューしたもの。吉野氏はドイツの敗北までベルリンに駐在しており、ナチスの崩壊の過程と日本大使館の内情が語られている。他の文献と併せて読むことにより、当時の状況が立体的に浮かび上がってくる。大島大使については、独語に堪能とされているが「自由に意思疎通を行えるレベルには達していなかった」、またソ連軍が迫るとオーストリアに避難してしまい、吉野氏が大使館の倉庫にある酒と肴の輸送を命じられたなどのエピソードも語られている。2021/10/31
Riko
2
図書館で借りた2021/09/27