内容説明
敗戦後の日本では、手紙、電話、雑誌、映画まであらゆる言論がGHQによって検閲された。その職を担ったのは、英語を解する日本人エリートたちだ。著者が発掘したGHQ名簿をはじめとした資料、時を経て口を開き始めた経験者たちの証言によって浮かび上がってきたのは、日本人検閲官たちの葛藤、待遇、そしてその経歴を隠し続けた意外な著名人の名――第一級史料をもとに、今日にも通じる問題を炙り出す戦後裏面史。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
南北
42
読友さん本。国立国会図書館で検閲官名簿が発見されるとともに、江藤淳の「閉された言語空間」では明らかにすることができなかった検閲官たちの証言が雑誌や自費出版本などから明らかになってきた。東大や津田塾などで英語が得意な若者などが戦後の食糧不足から高給な検閲の仕事に携わっていく様子がよくわかった。後半で注目すべきは劇作家の木下順二が検閲官の仕事をしていたと指摘する点だ。本人は沈黙したまま亡くなったが、可能性はかなり高いと著者は述べている。新書とはいえ、科研費を元にした調査なので、内容も学術レベルと言えると思う。2021/11/26
軍縮地球市民shinshin
16
新書だがその内容の濃さは学術書レベル。占領期の1945年から1949年にかけて、GHQが書籍・新聞・雑誌やラジオ、映画などを検閲していたことはしられているが、一般人の信書まで開封して検閲を行っていたことは意外と知られていない。検閲は2万人ともいわれる日本人協力者(アルバイト)を動員して行われていた。今まで多くの人が口を閉ざしていたが、著者はインタビューや文献を通じてGHQ検閲の実態や日本人検閲官の胸中を明かしている。「食うため」に日本人の封書を開封して英文に翻訳して上司の米軍人に提出する日々。大学教授から2021/11/01
やまやま
11
郵便や出版の検閲はアメリカ国内でも不適と思う人がいたが、それは統治のために欠かせない事業と考えたマッカーサーは批判を聞き流して諜報を継続した。ならば検閲の影が見えないようにした方が良いかというと、郵便検閲で端的に示されるように、開封済みが分かる転送の仕方は、GHQ権力が身辺を探るという示威を感じさせる。一方で私設郵便が黙認されたというのも、被支配者のしたたかさも汲み取れる。本題の検閲官の生き方においては、職務と割り切ることは共通した意識に見えるが、日本という価値に関して幅の広い評価に思えた。2022/06/19
hitotak
9
占領期にGHQに雇用され、日本人の書簡を開封して検閲する業務に就いた、英語を解する日本人エリートたちの仕事内容、待遇、採用の経緯等が詳しく書かれている。つい最近まで戦っていた米国に雇われて同胞を売り、明確な憲法違反である信書を開封することに葛藤する者もいれば、特に良心の呵責も覚えず仕事をこなし、サークル活動を楽しむ若者グループもあった。食べていくのもやっとという時代に高給を保障され、身に着けた英語力を生かせる仕事についた人々が、検閲官だった過去の証言をし始めたのは漸く2000年代に入ってからだったという。2022/01/13
チェアー
8
ほとんどの検閲担当者は、生活のために悪びれず仕事として検閲をしていた。憲法違反であるのに、それより大きなGHQという権力のもとで許される(そもそも許されるかどうかも考えていなかった)と感じて。 結局、戦中から戦後にかけて、検閲はなされていたし、だれもそれを不思議と思わなかったということだ。 このことはいま、記銘しておかねばならない。これからのために。2021/06/08