内容説明
「敵はおみかん食べている」
男と女が二人だけで山の中で蜜柑を食べている以上、きっと何事か始まるに違いないと思った――。(「白い街道」より)
若い男女を「敵」と見なして偵察するたわいない遊び、美しい少女への憧れ、そして覚えず垣間見た大人の世界……。誰もが通り過ぎるが、二度と帰れない〝あの日々〟の揺らぐ心を鋭敏な感性でとらえた、叙情あふれる十五篇。表題作ほか「少年」「帽子」「赤い実」など教科書名短篇を含む、文庫オリジナル・アンソロジー。〈巻末エッセイ〉辻 邦生・椎名 誠
【目次】
少年/蜜柑畑/滝へ降りる道/晩夏/投網/帰郷/黙契/白い街道/颱風見舞/ざくろの花/ハムちゃんの正月/馬とばし/帽子/魔法壜
〈巻末付録〉赤い実/少年に与える言葉(随筆)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
しーふぉ
23
あすなろ物語やしろばんばとはまた違う、おそらく自伝的小説集。この世界観好きです。2022/05/21
海燕
17
読みやすい短編集。井上靖の作品は相当に久しぶり。どれも端正な文で綴られており、ちょっと寝転んでは読めない(笑)。国語の教科書に収録されるのも納得。小学生の年頃の少年が主人公だが、伊豆の田舎を舞台に描かれる作品がほとんどなので、浮かぶ情景も何となく似てきてしまう。惹かれたのは「晩夏」「白い街道」「ざくろの花」など。2021/05/08
ドラマチックガス
14
家族で伊豆旅行へ行き、井上靖文学館にも寄ったのはもう10年近く前でしょうか。その時通常ルートから遠回りして湯ヶ島も通らせてもらった。だいぶ開発されてしまったらしいが、それでも自然が豊富で、洪作はここで育ったのだという感慨は大きかった。そんな伊豆時代を舞台とするような短編がこれでもかと出てくる贅沢な一冊。やっぱり井上靖の文章、好き。子どもたちがとにかく余所者を敵視し、それでいてなぜ敵視しているのかは誰もわかっていないのが堪らなく楽しい。夕飯後も外で遊び回る彼らが眩しくて仕方ない。2021/09/20
そうたそ
13
★★★☆☆ 以前読んだ「しろばんば」が好きだったもので、本作も似た系統のストーリーを楽しめるかもしれないと手に取ってみた。教科書にも採用されたことのある作品も数多く揃うが、どれもどこか自伝的要素を感じさせる、少年時代ならではの瑞々しい感性が描かれ、何気ないことにも感動を抱くことの多かった日々が、読んでいてどこか懐かしく思えてくる。生きた時代は違えど、いつの時代も少年の頃の記憶というのは相通ずるものがあるのかもしれない。2024/09/21
なかなか
13
初めて触れたのは、教科書での「あすなろ物語」か「しろばんば」か。それから「敦煌」「楼蘭」など西域ものに。本格の小説家だけど最近は忘れられているようにも感じる。 この短編集も少年期特有の心の裡を描いてタイムレスなんだけど、今となっては舞台装置が古くさく(いっそ、古い、なら想像力を刺激しただろうが)感じられて、現代の読者には届かないんじゃなかろうか。 氏は詩人でもあり、「流星」が大好きだ。 夜空を流れて消えていく星に我が身を投影。青年期の漠然とした高揚と不安、煌めきと儚さを硬派な折り目正しい文章で綴っている。2021/07/21
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