内容説明
〈都会とは恐ろしいところだ〉。5年間地方で暮らし、都会に戻った私は毎朝のラッシュに呆然とする。奇妙に保たれた〈秩序〉、神秘を鎮めた〈個と群れ〉の対比、生の深層を描出する「先導獣の話」のほか、表題作「木犀の日」、「椋鳥」「陽気な夜まわり」「夜はいま」「眉雨」「秋の日」「風邪の日」「髭の子」「背中ばかりが暮れ残る」の10篇。内向の世代の旗頭・古井由吉の傑作自選短篇集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐島楓
68
社会批評と正常と狂気との境目。目を閉じてもまとわりついてくる思索のなかに生きるということ。理不尽な心の病に落ちこんでいく主人公たちは、それが彼らにとっての必然であるかのように見える。しかし社会への順応者とそうでない者の違いは何なのかという問いに、読者は身をすくめるしかない。柔らかで鋭利な知性のなかで問いかけられ続ける以上は。2018/09/19
yumiha
42
緊急事態宣言のせいで届いた予約の本しか借りることができない市立図書館。活字中毒の私、読む本がなくてついつい同居人の愛読書(本書も)に手を伸ばすこの頃。古井由吉自選の世界は、いつもながら自己と他者が入り混じる。現実と妄想も、正気と狂気の境もあやふや。読んでいる側も、ちょっとした凸凹につまずきがち。一番読み易かったのは、私小説的な「髭の子」。入院した父親の髭を剃る息子。だんだん食欲が落ちても、髭は相変わらず剛いまま伸びてゆく。髭剃りなんてしたことがないから、私なら途方に暮れることだろう。 2021/09/11
踊る猫
33
瑞々しさを感じさせる「先導獣の話」から始まって、幻想的短編やリアリズムを追求した短編など、ヴァラエティに富んだ作品群が収められている。古井由吉のビギナーはこの本か『杳子』あたりから読むことを薦めたい。しかし、ここまで主題が一貫している作家もそうは居まい。風俗に流されることなく(従って、どの短編も古びていない)、己の実存を問い続けて来た作家。生きる意味を、自分が今ここに居ることの重みを書き続けてきた作家……読みながら、私もまた己の生と死について否応なく考えさせられざるを得なかった。この作家は危険だ。だが凄い2019/06/02
harass
24
なんとも無二の文章を書く作家。エッセイかと思いつつ読んでいくと幻想小説のような世界のきわを行き来していることに気が付かされる。独特な言葉遣いをするので難解に感じるところがあるが慣れると面白い。記憶などの心象風景と現実とのねじれの使い方に強みがあるのか。よくアンソロジーで読む『眉雨』は伝奇小説のような意表をつく。作家の長い期間から選んだ自選短編集で次第に老いのことが近年の作品には印象が強い。2014/06/04
真琴
9
要再読。無意識、理不尽さ、発狂、正常と異常、日常と非日常などについて途中から意識しながら読みました。気を抜くと迷子になりそう。登場人物もこの社会の中で迷子になっているように思えました。難しかったけど中毒になる。2022/11/08