内容説明
破壊された村にやってきた主人公とその管理下のロボット「雪怪」が小型機械車と出会った顛末を描く「戦車の中」ほか、AIをめぐる物語6篇と2篇のエッセイを収録。劉慈欣『三体』に続き、中国にヒューゴー賞をもたらした「折りたたみ北京」著者による短篇集
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
buchipanda3
111
人間とAIの関係をテーマにしたSF短編集。SFの世界では古くから馴染みある分野の話だが、本作では現在の現実的な技術的観点からの考察論をまず述べて、それとリンクさせた小説でAI時代の生き方に言及しているのが特徴で興味深く読めた。著者が懸念しているのは、情動を軽視し、自らデジタル世界へ過剰に帰属化していくこと。AIが相性診断する時代。日常の選択をプログラムに委ねることは身近に。人の方がAIへ似せていく世界へ。AIが子供から学ぶ話も面白い。散漫、飽きるなどが最も創造的選択に繋がる。子供こそ最も優れた先生なのだ。2021/02/28
keroppi
84
AI論エッセイ2編と、それを発展させた小説6編。A Iが、どうなっていくのか。人間は、どう付き合っていくのか。小説に描かれるように、人に危害を加えるのか、人に入れ替わるのか、支配するのか、共存者理解し合うのか。エッセイにも書かれていたように、人間の持つ創造力と感情が人間の力なのだろう。小説もそれぞれに面白く読めた。AIと人の関係を、そして人間そのものを見つめ直させてくれる作品集だった。2021/07/08
藤月はな(灯れ松明の火)
69
最初は100頁余りのAIについてのエッセーで始まる。切り口がドラマ『ウエストワールド』に言及していて喜んだファンでした(笑)しかし、中身は人間の成長と学び、好みの確立も過程、不意の感情の表出と共感を基に「AIは人に並び立つか」、「AIは脅威になり得るか」を真剣に考えており、とても面白い。『教科書の読めない子供たち』と被さる内容もあり。特に「AIは常識を持ち得るか」という着眼点は盲点でした。「不死医院」は主人公が沈黙するしかない真相に絶句。「愛の問題」は「藪の中」のようだが、家族の愛は確かにあって安堵した。2021/04/10
sin
58
【エッセイ】AIの実務的な可能性を語るがその進化を突き詰めるため人の思考に想いを至らすと魂の不在を思い知る。脳とそれに付随する身体と云う実態がなければ思考は発生しないのではないか…「我思う我が在る、故に我在り」?【短編】人とAIの置き換えは可能か…答えは否!人の完全なコピーは果たしてその人たり得るのか…魂の問題や如何に?AIの提示する解答の意味をAIは理解し得るか、また自身の存在に対する脅威を理解し得るか…そもそもAIに自分と云う概念は存在するのか?人間を滅ぼすのは人間!ビバ自由意思!非効率は学びの原点?2021/03/11
Shun
33
中国のSF作家・郝景芳さんは大学で天体物理を専攻、その後経営学・経済学の博士号を取得し現在は小説家の他にも事業を手掛けていたりと実に多才な女性です。そんな作家が書いたSF短編集が本作、そして冒頭には人工知能に関する見解や考察のエッセイが載り、とてもお得な1冊でした。この作家は「折りたたみ北京」という作品から日本でも知られ、その著作はSFというジャンルだけに拘らない社会派でもあり、今後日本で邦訳される著作に期待が集まります。本作はAIをテーマとした短編集で、この1冊から始めても著者の魅力が伝わると思います。2021/05/16