内容説明
「つかう」を巡る、かくも深く、多様な論考。
「つかう」という言葉の様相をさまざまな観点から考え抜いた一冊。道具をつかう、出汁につかう、楽器をつかう……、同じ「つかう」でも、その意味はさまざま。この単語を契機に、意味を探り、使われ方の変遷を辿り、哲学はもちろん、民俗学、芸術学、料理本まで関係書物を渉猟し、考えを深めていきます。著者は、2015年4月から朝日新聞の朝刊に「折々のことば」を連載中の、現代哲学の第一人者である鷲田清一氏。「つかう」を巡り、ひとをつかうから始まり、道具の使用、民芸での意味の変遷、多種多様な身体用法、武道でのかけひき、保育・介護の場面での展開、ペットとのつきあい、ひとと楽器の関係など具体的な場に即して、徹底的に考え抜いた哲学エッセイで、鷲田ワールド全開の一冊です。ひとを、道具を、楽器を、衣服を、ペットを……、「つかう」を介して人はどのように、ひとと、社会と、世界と拘わっているのかを深く考察します。カバー写真と文中には、現代写真の先端で作品を発表し続ける、ヴォルフガング・ティルマンスの写真を採用。アートにも親和性の高い一冊です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
89
朝日新聞に「おりおりの言葉」を連載されている鷲田先生の「つかふ」という言葉をもとに様々ンものを使用するということについての論考です。副題に「使用論ノート」と書かれているのでもう少しやさしいかと思いましたが結構歯ごたえがありました。柳宗悦や西岡棟梁などが出てきて時々は現実的な話になるのですが思考的な部分が多いと感じました。2021/11/25
けんとまん1007
52
つかふ。平仮名で書かれているところに、既に、広い意味が示されている。これを、漢字で書くと、多様な漢字になるし、そこからさらに、視野が広がる。そこにあるのは、主体と客体。卑近な例だと、使う人と使われる人(雇用主と雇用される人、指示を出す人と受ける人)、道具とそれを使う人。言葉遣い。その関係性の在り方で、その質まで変わりうるというこっとに納得。職人の例が書かれていて、理解しやすいし、その深さを改めて考え直している。そこに、理想の一つを見出してしまう自分がいるのも事実。深く、広い。2021/07/08
抹茶モナカ
20
「つかう」ということを思考した哲学の本。高度消費社会現代への警鐘という意味もあるようだ。道具を使い熟す事の大切さを考えさせられた。最近は、便利グッズを使い捨てにする事しかしない、自分。プリコラージュとか、工夫の大切さを考えた。職場では駒として使われる身なので、使われる自分についても考えたりもした。鷲田先生は朝日新聞の「折々のことば」を休載されているので、鷲田先生の文章を読んでホッとした自分もいた。2021/04/10
amanon
5
「つかふ」という言葉を巡っての哲学的論考。そこに芸術論、文化人類学、言語学的分析も織り込んで、縦横無尽に論じているため、話の道筋についていくのにやや難を覚えたか。それでも、普段何気無く使っている「つかふ」という言葉にこれ程の豊穣で多義的な意味が込められていたのかということに驚愕を覚える。また、科学技術の発達により、我々がいかに自分達の身体の可能性を狭めているかという事実を改めて痛感。元の状態に戻ることは最早不可能なのだろうけれど、日頃から自分の身体について考えようという気になる。教育論としても有効。2021/11/08
oooともろー
4
「つかふ」「使用」にまつわる論考。難解なところもあるが概ね理解はできる。使う者と使われる者・物との互換。近代以降失われた使うことの多様性。2022/05/24