0番目の患者 逆説の医学史

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0番目の患者 逆説の医学史

  • ISBN:9784760153060

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内容説明

病気を感じる人たちがいるから医学があるわけで、
医者がいるから人びとが
彼らから自分の病気を教えてもらうのではない。
――ジョルジュ・カンギレム『正常と病理』より

■内容
これまでの医学史は、
患者をないがしろにしたまま、
医師の手柄話、治療法や試行錯誤の過程など、
もっぱら医師たちに焦点を当てつづけてきた。

しかし、医学者だけが英雄なのか
当前のことだが、患者なくして医学の発展はなかった。

野戦病院や臨床の現場、検査室、診察室で
自らの身体や傷口を辛抱強くさらしてきた者たちこそが、
医学の歴史に大きな貢献をしてきたのだ。

隔離されたチフスのメアリー、
上流階級の見世物にされた女性ヒステリー患者、
ある仮説のために女として育てられたデイヴィッド、
死してなお自らの細胞を研究されつづけたヘンリエッタ、……

本書では、輝かしい歴史の裏側に埋もれた、
病者たちの犠牲と貢献にスポットを当てていく。

コロナ後の世界において、
最初に感染した者たちへのバッシングは絶えない。
しかし、犯人捜しにも魔女狩りにも意味はない。

Covid-19の感染拡大を受けたロックダウン宣言の直前に
フランスで出版されたこの本に登場する患者たちの物語が、
私たちにそのことを教えてくれるだろう。

■「Patients Zero」とは
感染症学では、集団内で初めて特定の感染症にかかったと見なされる患者のことを「インデックス・ケース」または「ゼロ号患者(ペイシェント・ゼロ)」と呼ぶ。微生物やウイルスの研究が進み、詳しいことがわかるようになるにつれ、ときに最初の感染者を特定できるまでになった。本書では、この「ゼロ号患者」という言葉の意味を医学、外科医学、精神医学、薬理学のあらゆる分野に意図的に拡大解釈して適用することにしている。

目次

【目次】
日本語版によせて/はじめに
第1章タンタン
第2章麻酔のゼロ号患者たち
第3章人格が変わってしまったフィネアス
第4章ヒステリーのヒロインたち
第5章ジョセフ少年
第6章ニューヨークの女性料理人
第7章アウグステ
第8章ジェンダーの蹂躙
第9章ふたつの特別な数字
第10章ウンサの沈黙
第11章永遠に生きるヘンリエッタ
第12章海馬の冒険者たち
第13章マッキー夫人
第14章無原罪の御宿り
第15章吐き気を催す事件
第16章ジョヴァンニのアポリポタンパク質
第17章悪魔と奇跡の生還者
第18章いつもと違うインフルエンザ
第19章脳のない男
おわりに/参考文献

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

アキ

88
初めて感染症に罹ったとみなされる患者を「ゼロ号患者」と呼ぶらしい。SARSと異なり、今回の新型コロナでは0番目の患者を見つけられそうにないけど、腸チフスの無症候性キャリアーでニューヨークの女性料理人だったメアリー・ブラウンが1915年に終生隔離が宣告されたり、アウグステという50歳前後の患者をアロイス・アルツハイマーが剖検で1906年に発表したアルツハイマー病は、発表当時注目されていなかったのが1980年代になって再注目されたなど、0号患者にまつわるエピソードも興味深い。19章の患者のトリビアが載る。2021/02/17

R

54
医学の発展には医者よりも前に、患者があった。その当たり前のことをもっと詳しく調べて讃えようという本、非常に好奇心そそられる内容でした。いくつもの悲惨な医学的な事故も含まれるけども、特によかったのは、ゼロ号患者の癌細胞が、その後実験に利用されて、通算数トンになっている事実とかは本当に賞賛されてしかるべき事実だと思った。人体の不思議も垣間見ながら、海馬を失った男など、様々な人たちが医学の進歩を支えた記録がとても面白くまとまった本でした。話によって、テンションが違うのが気になったが、読みやすかった。2021/05/15

kawa

48
0番目の患者とは、初めて特定の感染症に罹ったと見なされる患者を言うとのこと。本書は医学の世界で脇役・端役に置かれがちな患者にスポットをあてて、医学の発展過程や問題点を論ずる野心的な試み。なじみの無い分野で、翻訳文かつアイロニカルな表現に苦戦したが、中々興味深い内容で最後まで読めた。中世での怪我の治療ははさみを扱う理容師の仕事、歯の治療者は抜歯師と呼ばれた、気持の良くなると実演ショ-で用いられた「笑気ガス」が麻酔の始まり、予防接種は6世紀に中国で天然痘の膿を希釈して吸入したことに始まる、等々の蘊蓄が面白い。2021/03/26

こばまり

45
いずれのエピソードも当事者の戸惑いや恐れ、苦痛、嘆きを少なからず孕んでいるのに、どこか飄然とした趣があるのは著者がフランス人だからだろうか。時に出典がWikipediaなのはご愛嬌。片目でもハンサムなフィネアス・ゲージの表紙が印象的。2023/03/25

kei-zu

29
「症例」と「診断」は、同一ではない。「診断」による認識の前に、事実たる「症例」はあるからだ。だが、歴史に突如現れた(ように見える)「症例」をめぐる事象は、今の時代から見て誠に興味深い。 自覚症状がなく行く先々の人々を腸チフスに罹患させた事例や、香港のホテルから世界に感染を広げたSARSの事例は、現在世界を覆うコロナ禍に重なる。 片目から鉄棒が貫きながら命を失わなかった例や、頭蓋の中で髄液が脳を大きく圧迫しながら大きな障害が認められなかった例など、脳の不思議にも驚かされる。2021/04/08

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