内容説明
四歳の頃、つなごうとした手をふりはらわれた時から、母と私のきつい関係がはじまった。終戦後、五人の子を抱えて中国から引き揚げ、その後三人の子を亡くした母。父の死後、女手一つで家を建て、子供を大学までやったたくましい母。それでも私は母が嫌いだった。やがて老いた母に呆けのきざしが──。母を愛せなかった自責、母を見捨てた罪悪感、そして訪れたゆるしを見つめる物語。(解説・内田春菊)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
284
角田さんの書評集より。佐野さんのキレッキレの文章が心地よい、そしてこれほど熱烈な娘から母へのラブレターを、私は知らない。2016/11/09
kaizen@名古屋de朝活読書会
209
壮絶な人生。戦争で引き揚げ、疎開し、弟の世話をし、亡くなり、父親が亡くなり、母親の世話をする。料理、裁縫が上手な母親と、馴染めない自分。20世紀の日本での物語。実話なのか、小説なのか、読んでいて分からないほど現実的。フロイトが男だから、母親と娘の間の分析が十分でないところを指摘しているのには参った。2013/07/08
chimako
91
このところ洋子さんのエッセイやら嘘話やらを立て続けに読んだので知っているエピソードがたくさんあった。「洋子さん、その話知ってるから」と軽くツッコミ入れながらお母上シズコさんの迸るエネルギーを浴びました。実家の母は養子取りで家付娘。明らかに私より弟を可愛がったし、自分のことが好きだった。親が子どももにベタベタするような家庭ではなかったが全然不幸ではなく満足していた。友だちがお母さんと腕を組んでいるの見て驚いたことを思い出す。そして今も元気でわがままなのを有りがたいと思う。2016/06/18
きんぎょっち
69
「私は母を金で捨てた」と何度も出てくる文章に違和感を感じるのは、世代が違うせい?居心地のいいホームでプロにケアされるのは不幸ではないし、そのためのお金を稼いでいる著者はむしろ親孝行、と思うのだが。「母さん、呆けてくれてありがとう」と母親と抱きあって和解する場面では、共感のあまり涙が出た。私の母も一時半呆けの状態になった事があるが、その時の母は性格の悪さが消え、とても可愛げがあった。呆けが治ってくるにつれ、意地悪な自己中に戻ってしまったが。私が母と和解できるとしたら、著者と同じ状況しか想像できないなぁ…。2018/08/21
菜穂子
57
どうしたって母親は娘の前に立ちはだかる存在なのだ。母シズコさんは夫を無くし7人の子を産み、5人育てる中で形成されてきた人格であり、洋子さんはその中で長女として、並々ならぬ責任感と強さが形成されたと伺える。たくさんの子供たちの中であれば気の合わない子もいるけれども、このふたりの場合母娘の間にスキンシップも優しい言葉のやり取りも無かったのだ。認知症になった母と人生の終末になって、波瀾な人生を送った二人の間にやっと訪れた優しい心の交流が嬉しくて、そして悲しい。2017/03/16