内容説明
事故で婚約者を喪った額装師・奥野夏樹。彼女の元には風変わりな依頼ばかりやってくる。宿り木の枝、小鳥の声、毛糸玉にカレーポット、そして――。夏樹は額装の依頼品を通じて依頼人の心に寄り添い、時にその秘密を暴いていく。表具額縁店くおん堂の次男坊・久遠純は、そんな夏樹の作品の持つ雰囲気に惹かれ、やがて彼女自身にも興味を持つが。五編の連作集。『額を紡ぐひと』改題。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ベイマックス
103
「思い出のとき修理します」は時計屋に持ち込まれた『時』がらみの問題を解決していた。今作は『額縁』作りを通して、5つの短編ごとに謎を解き、全体としての物語として、主人公の額装師の夏樹の婚約者だった弘海のバス事故死の時に謎の行動をしたカレー屋店主の池畠、その池畠に溺れているところを助けられた『くおん堂』次男の純。この3人の心の闇を解き明かしていく。恋愛としては、夏樹と弘海と田代綾香の対応に考えさせられるものがある。2020/12/22
hirune
61
その人の過去や傷に関係するものを額装することで、その人の抱える思いに区切りをつけてくれる額装師。額装って平面の絵の印象しかなかったんですが、立体のものでもなんでもできるものなんですね。夏樹、純、池畠の3人とも亡くした人への未練・罪悪感に囚われているけれど、3人が関わり夏樹が額装のために過去の真実を探って明らかにすることによってそれぞれが過去から未来に視線を向けられたのだからいい結末でした。それにしてみんな抱えてるものが重い。。2021/07/09
たるき( ´ ▽ ` )ノ
52
不思議な読了感。婚約者の死をきっかけに額装師になった夏樹は、ある目的のために行動している。現実とあの世を行き来しているかのような、まさに臨死体験のような作品。生きていくことは、命を繋いでいくことなのだと語りかけられている気がした。2021/05/13
泰然
42
静かに心に染み入る連作短編集。表紙は職人女性の謎解き作品モノを想起させるが内容は真逆。ハンドメイドの西洋額縁制作を媒介にして、人生模様、心の傷、過去の影、再起が静かなタッチで描かれる。事故で婚約者を喪った主人公の夏樹は額装師で、風変わりで様々な依頼が入る。謎めいてストイックな彼女の作る額縁は東欧風でまるで祭壇みたいと評されることで、作品に一貫した物悲しさを与えている。額縁が人のセンシティブな物語を収めて表現する「祭壇」ならば、『額装師の祈り』という題名は優れた暗喩だ。悲しむものは幸いです、とされるが如く。2021/01/07
シフォン
41
谷さんの心にキズを負った芸術家(芸術的才能を持った人)の話は、興味深いのですが、この話は、「異人館画廊」シリーズよりもさらに暗く、出てくる登場人物がみんな過去に心に深いキズを負っている。主人公の奥野夏樹は、少し変わった額縁をオーダーメイドで引き受けている。依頼されるものは、「宿り木」「小鳥の鳴き声」など、依頼人の額装したい理由を突き止め、祭壇のような神秘的なものを作り上げる。2021/05/22