内容説明
「これでは事故が起きないほうが不思議だ」……放射能を浴びながらテイケン(定期点検)に従事する下請け労働者たちの間では、このような会話がよく交わされていた――。美浜、福島第一、敦賀の3つの原子力発電所で、みずから下請けとなって働いた貴重な記録=『原発ジプシー』に加筆修正し、27年ぶりに復刊した名著。
◎「原発事故は人災です」<瀬戸内寂聴>
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
162
本書は27年も前のルポルタージュなのだが、著者のあとがきによれば、どうやらその実態は今もさほど変わってはいないようだ。そもそも、土建事業などと同様に、親会社(原電、東電等)から受託された仕事が、子受け、孫受け、ひ孫うけと受け渡されて行き、会社の立場も労働者の立場も、この順序で弱くなっていくという構造だ。また、安全管理に対してのあまりにも事なかれ主義的な姿勢には驚くばかりだ。労働災害もなかったことにされ、公式には「連続〇〇日無事故」となる。自分自身のことを振り返れば、目をつぶって来たことを恥じるしかない。2013/01/26
かふ
22
原発潜入記で書かれたのはチェルノブイリ原発事故の頃(1979年)だった。東日本大震災での原発事故を予言するような本書だが東電の隠蔽体質とか危険とか知りながら仕事がないから働かざる得ない地元の者達。さらに今も問題になっている外国人労働者。ヴェイユ『工場日記』を踏まえている。後に水木しげるで漫画化された『福島原発の闇』も読んでいたけどあらためて原発(大企業である電力会社と政府)のいい加減さとそこで働く下請け労働者の悲惨さを知る。2019/04/21
幹事検定1級
21
原子力発電所に実際に作業員として働いていたドキュメンタリー。 原発の問題は様々な観点から賛否両論あります。 ただ、原子炉などの定期点検・修理などに携わる際、無傷・無害でありつづけるのは難しいのかもしれません。 放射能・汚染されている設備を全く隔離すること、隔離しながら点検修理することは、本当に難しいことがよくわかりました。 筆者の身を以て体験したことを正しく理解して、子供や孫に健康であり続けるための教育を親として実行したいと思った一冊です。2014/05/18
更紗蝦
19
原発労働の実態がよく分かる本です。どう考えても原発の設計は「定期点検をすること」を前提としておらず、原発労働者の被曝リスクを無視することによって原発の建設コストを下げていることが明らかです。空気漏れのするマスクでの作業、放射線管理員がいない放射線管理区域、放射性物質の焼却、放射性物質の海への排出・・・等々、放射性物質の閉じ込めもできていなければ、原発労働者の被曝のコントロールもできていない実態には、ただただ唖然とします。 2014/09/19
壱萬参仟縁
14
1979、1984年に世に出ている内容だが、復刊とのこと(奥付前の頁)。日本人は3年でのど元過ぎれば熱さ忘れるのか? と思ってしまう。誰かが、人間が、ロボットではなく、現場に入らなければ管理できない。得体の知れない装置。今も汚染水を海へは止む無し、とか報道されている。封じ込められない汚染。まさに、日記で現場の臨場感を醸す。退職金20年勤続600万円(24頁)。誰でも取り換え可能か。やはり、文明の終着駅との直感を強める内容。残念だが。どす黒い痰の色(51頁)。ひぇぇ・・と思わされる。漸進死か、即死か、だと。2013/05/08