内容説明
建材会社社長の高梨修一郎、50歳。先代社長の娘と離婚し、現在は一人暮らし。取引先の粉飾決算によって経営危機に陥り、事態収拾を図るとともに引退を考え始めていた。今、脳裏に浮かぶのは、怒涛のように過ぎ去った日々の記憶。18歳で会社に入った高梨と、先代の女社長の間には、何年経ったとしても、絶対に誰にも言えない秘密があった――。心を締めつけ続ける「孤独」を緻密に描いた傑作長編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
chantal(シャンタール)
93
「一瞬の光」を読んで以来、苦手意識のあった白石さんを久々に読む。これは読み易かった。中堅建材会社社長の、現実にはそうそうお目にかかれないだろうと思われる波乱万丈な人生。でもそれをさらっと読ませてしまうところは流石。社長さんってこんなに良い生活出来るんだなあって羨ましくなるような日常なんだけど、でも埋めがたい心の孤独が全般に漂う。全てを投げ出して、もう人生も何もどうでもいいと思う瞬間はきっと誰にでもある。そんな一瞬が光のない海のようなものなのだろうか。孤独の魂はどこまで漂い続けるのだろう。2021/08/27
ワニニ
58
運命(さだめ)を信じるか。そして、自分の生命とは何か。人生の、長い物語の、種々複雑な出来事も繋がりも、“これ”によって、こうあるべくしてなったのだと解れば、心落ち着く年齢になったということだろうか。白石さんの書くもの、スピリチュアルなことも、やたらぐるぐる考えずにすとんと落ちるのは、初めてかもしれない。ぐるぐる考え込むのは嫌いじゃないけれど。そして、そのぐるぐるの要因は、今回もそこかしこに散らばってはいるけれど。いつも何処でも孤独で絶望的だが、何でか必死に光を探し続ける男性に、今回も読まされてしまった。2018/06/03
カブ
49
人の一生は最後まで何が起こるかわからないが、こんなにも数奇な運命の人はやはり、小説だからなのか?主人公の建材会社社長の高梨修一郎とその周りの人々の話だが、周りの人々の物語だけでも、深い。「いのちの支え」という言葉が印象に残る。2018/06/13
チャーミー
45
美千代から社長業を引き継いだ修一郎は以前陶製の水入れを購入した販売士花江の名刺を見つける。割れてしまったこの水入れは海蛇の血が混ぜられているという。会社は取引先の粉飾決算で合併案が持ち上がり窮地に立たされる。妹の篤子はバリの海で帰らぬ人となり妻の淳子とも別れ孤独の身。一方花江も不遇な環境で育っている。社員寮寮長の堀越夫妻も紆余曲折の人生を歩んでいる。父修治の喫茶店「楽園の樹」に籠められた意志とは?篤子が言ってた光る海とは?修一郎が見た奇跡的な光景の数々。この物語の行く末が幸せであることを願いたい。2020/03/14
薦渕雅春
36
初めて読む作家さん。友達から頂いて読む事と。なかなか面白かった。どういうジャンルと位置づけたらいいのかは微妙!ミステリーでない事は明らか。経済小説的な要素もあるにはあるが、もちろんそうではない。男女間も描かれてはいるが、決して恋愛小説でもない。人間と人間との深い絆、そして決して埋まることがないような深い溝、救いようが無いことはないと思うが様々な闇に触れているような・・・。こういう風な小説で男性が主人公になっているのも珍しいのか、とも考えてみたり。けど、著者の他の作品も読んでみたいと十分に思えた作品だった。2020/11/04