内容説明
解剖実習、外科手術、患者の死。
つらいこともたくさん、でも医者になってよかった。
「小学館ノンフィクション大賞」受賞医師の青春。
神童と言われ、両親に期待された兄は医師を目指さなかった。なぜか凡庸な文学少年だったぼくが医師を志すことになった。才能がない分、必死で学び、医学生になり、研修医となった。はじめての解剖では人の多様性を身をもって知った。入念な予習で挑んだはじめての手術は、予習のようにわかりやすいものではなかった。病院という場でかかわるすべての人たちがぼくを医師にしてくれた。若い小児外科医の成長を心あたたまるユーモアとヒューマニズムで書くエッセイ。
“こうした解剖学的な変異(バリエーション)を破格と言う。人間の体の中は、破格の連続だった。ぼくは人体が教科書通りでないことに何かほっとした気持ちになった。考えてみれば、目の前のご遺体にも何十年に及ぶ豊かな人生があったはずである。そして何かの事情や決意で自分の体を医学教育に役立てようと献体したのだ。人間の人生には一人ひとり個性とかバリエーションがある。だったら、体の中にだって破格があった方が人間くさくていいじゃないか。(本文より)”
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ぶんこ
56
かなり面白かったです。優秀な兄と比較されて育った著者が、どん尻の成績で入学し、どん尻の成績で卒業、国家試験にパスして医師となる。この「どん尻」の意識があったからこそ、必死に勉強し、外科手術をマスターし、ウイルス学の大学院へと進み、世界へ論文を発表するまでになる。興味を持ったことへの探究心が凄い。小児外科では患者や患者家族を前にしての罵倒の日々。ウイルス学教室では一転大学院生ファーストで、のびのびと研究に没頭できる環境へ。ウイルス学で実績を残し、研究者か臨床かと悩み、患者を治療することが自分の道と臨床医へ。2021/05/11
ベーグルグル (感想、本登録のみ)
47
どんじり医って書かれてますが、読んでみると全然どんじり医でないという印象でした。でも努力の積み重ね、姿勢は素晴らしい。小児がん研究者としての評価も高いが、医師となり34年目で体調を崩され現在は開業医をされている。「つらいこともたくさん、でも医者になってよかった」と思えるって事が人生の醍醐味。2021/05/24
けいこ
41
どんじりで医学部に入学した著者が、数々の経験と努力で医者として一人立ちするまでを綴ったエッセイ。昔、腰椎穿刺(検査の為に腰椎に針を刺して髄液を抜く処置)を研修医がやると知って大丈夫?って不安になった事を思い出したけれど、一人前の医者になるには沢山の患者さんが、ある意味練習台になる。でもそれは、医者の手腕や医療の進歩にとって必要な事だと改めて思った。現在は小児科の開業医になっていて、そこでのエピソードも聞いてみたい。とてもテンポよく読みやすい文章でした。それにしても、手術を面白いと思うって外科医って凄い。2021/09/19
chie-don
28
一人の青年が、医者を目指し、小児外科医になり研究や臨床に真摯に取り組んで成果を上げていく、患者を救う、そんな様子がエッセイとして綴られる。自らを「どんじり医」というが、決してどんじりではない。目から鼻に抜けるような才能ではなくても、集中力と努力を重ねることでは、抜きん出ているのではないかなぁ。遺伝子と小児ガンの関係なども粘り強く研究し国際的に評価を得ている。着目点も優れているんだろう。著作もいくつかあるのね(*´∀`)ここ数年、医師や看護師にお世話になることが多くて、ホントにありがたく尊いと思う。2021/04/17
toshi
11
著者が医学部を目指すところから小児科外科医になって国際学会に招待されるまでの青春期。事実に基づいた小説なのかと思っていたら、著者はエッセイのつもりで書いたものだったらしい。連作エッセイと言えないことも無いけど。医者で文士の人は多いけど、この本も構成や文章が上手くてとても読みやすく分かり易い。分子生物学は私も片足突っ込んだことが有ったので興味深かった。 登場人物が全員カタカナで表記されているけれど、読みにくいだけなので普通に漢字で書いてもらいたかった。2020/11/24