内容説明
葬儀はカオス。
耳が聴こえない、父と母。宗教にハマる、祖母。暴力的な、祖父。
ややこしい家族との関係が愛しくなる。
不器用な一家の再構築エッセイ。
“ぼくの家族は誰も手話が使えなかった。聴こえない父と母の言語である手話を、誰も覚えようとしなかった。祖母も祖父も、ふたりの伯母も。唯一、家族のなかでぼくだけが下手くそなりにも手話を自然に習得し、両親と「会話」していた。(本文より)”
聴こえない両親に代わって、ほんの幼いころから「面倒を見る」立場になることが多かった。大人からの電話も、難しい手続きも、わからないなりにぼくが対応するしかなかった。家に祖母の友人などが集まり、楽しそうにしていても、母は微笑んでいるだけだった。社会から取りこぼされてしまう場面が多い母を見て、いつも胸が締め付けられた。どうしてみんな母のことを置き去りにするんだろう。“ふつう”を手に入れたかったぼくは、“ふつう”を擬態することを覚え、故郷を捨てるように東京に出た。それなりに忙しい日々を送っていたある日、滅多に帰省しないぼくの元に、伯母からの電話があった。「あのね、おじいちゃん、危篤なの」……。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
鱒子
66
耳が聞こえない両親。宗教にハマっている祖母。元ヤクザの暴力的な祖父。「ふつう」を求めて東京で働き始めたぼくは、伯母からの突然の電話により仙台に帰省することに……。キャラの濃い小説だなぁと思っていたら、あとがきでエッセイだと知り、おどろきました。愛を感じるあたたかい本でした。読みやすいレイアウトで一気読み。かなり良かった!!2020/11/27
kei302
64
ライターの五十嵐大さんが自分の家族を綴ったエッセイ。 帯に記された家族構成「耳が聞こえない父と母/宗教にハマる祖母/暴力的な(元ヤクザの)祖父」。 暗い内容ではない。表紙の穏やかなイメージどおり、大切に育てられたことが伝わってくる。 お母さんはかわいそうな人じゃない、その場に存在しないような扱いをするな。五十嵐さんのモヤモヤ。 家族や親族への不満も現れるが、そこから、いい思い出やその人のよい部分も思い出し、感謝の気持ちを持つ五十嵐さんの生き方や考え方がいいな。 2021/01/07
kum
32
耳の聴こえない両親、元ヤクザの祖父、宗教信者の祖母という"ふつうではない"家族の元で育った著者。幼い頃からかわいそうだと言われたり差別的な目で見られたり、当たり前だけれどそういうことがとても嫌だったと言う。祖父が亡くなったことをきっかけに仙台に帰省し、そこから東京に戻るまでの数日間の実話は、ふつうでないのにとても"ふつう"の家族の面倒くささと葛藤と、そして愛に溢れている。両親の愛情を深く感じ、ふつうではないことを自分自身が「肯定したい」と思えるまでの道のりが、じんわりと伝わってくる1冊だった。2022/03/09
ドシル
22
とても読みやすいエッセイ。一気に読める。 著者のデビュー作。 五十嵐大さんがコーダである..聞こえない親を持つ聞こえる子ども..だと言うことは知っていたし、ライターとしての作品は雑誌などで読んだことがあったが、ご家族のことは初めて知った。 色々複雑な想いを経験して、今があるんだろうなとしみじみ思う。 サラッとしか書かれていないが障害者差別や無理解という社会のバリアが、書かれていて考えさせられる。 ご両親が旧優生保護法の被害に合わなくて良かったなと思った。2020/11/10
アコ
20
自伝的エッセイ。耳が聴こえない両親、元ヤクザな祖父、新興宗教にハマる祖母。そんな'“普通ではない”家庭で育った著者。祖父の葬儀で久しぶりに帰省して直面する「血の繋がり」のややこしさがリアル。でもこれって'“普通”の家庭にもありそう。そういう意味でも登場人物の誰も厄介だけど、しくじってはいない。各々の生き様が他者目線ではしくじっているにすぎないのかも?と。んー〈家族〉そして〈普通〉の在りかたの答えなんてどこにもなさそう。だからいつの世でも悩むんだろうけど。/軽妙なタッチで悲壮感がなく読みやすい。2021/06/04