内容説明
バスが大好き――。路線バスで東京を出発して箱根を越え、東海道を西へ、もっと西へ。山陽道をぬけて熊本、鹿児島まで。いい景色、いい飲み屋、いい人びととの出会い。ゆるり、ぶらり、ふらふら、コミさんのノスタルジック・ジャーニー。
〈巻末エッセイ〉戌井昭人
■目次
バスが大好き
十年越しの東京湾ぐるり旅
東海道中バス栗毛
酒匂 小田原遠からず/行こか戻ろか 箱根のお山/
右手に富士 左手に海を/京都三条は終着点 出発点
山陽道中バス栗毛
海の幸を供に山陽路をいく/ふるさとの山はかわってた/
おもいでの海に抱かれて
山陽道から火の国へ
海峡の橋をわたって/二十年かけて着いた南の町
あとがき 西へ西へとバスで
〈巻末エッセイ〉今でもバスに乗るたびに 戌井昭人
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐々陽太朗(K.Tsubota)
58
知らない町に行き、どこで酒を飲むか探してまわるのが楽しみだという小実昌さんとは価値観が合う。ただ、少々失礼な言い方だが、とりとめが無い文章だなぁというのが小実昌さんのタッチ。それが味わいでもある。そして決して気取らない。肩の力が抜けている。というか最初から力なんか入っていない。それが小実昌さんなのだろう。そうした趣が好もしい。抜けているのは肩の力だけではない。ぼんやりと何かが欠けた生きかただ。生きていれば自然と身につく知恵が欠けており(あるいは敢えてそれを無視することで)無垢無頼な振る舞いとなる。2024/08/13
ホークス
47
東京から鹿児島まで、20年越しの路線バスの旅。昔テレビで見た田中氏は、泣き笑いのような茫然とした表情をしていた。大人らしい「物事を知ったような顔」は、偏見の色メガネが作る。体験した事しか人間には理解できないと分かっていても、色メガネ無しの渡世は辛い。田中氏の話がほのぼのしてるのは、無防備なほど色メガネが小さく純粋だからだろう。そこに独特の味がある。ただ純粋は裏を返せば無頼であって、タブーも淡々と踏み越える。今ならとんでもない事も書いてるし、時代なりの乱暴さや貧困が輪をかける。読者も無傷では済まない。2021/12/26
nemuro
26
JR根室本線、「富良野~東鹿越~新得~帯広」間を1泊2日の小旅行。車なら2時間ほどの帯広まで、JRと列車代行バスにて片道4、5時間をかけて。思えば、列車の乗り継ぎも宿泊も、2月以降初めて。そんな小旅行での持参本が本書。東京から、最後は鹿児島まで、20年かけての西へ西へのバス旅行。「路線バス限定」のため、彦根から西に進めず、諦めて名古屋にひきかえして三重県を回ったり。沢山の“悪戦苦闘”を楽しんでいる。「ジョチュウギク」を「女中菊」と思っていたら「除虫菊」だったとの話。そうだったのかぁ、と今知った私である。2020/06/27
雲をみるひと
18
田中小実昌の晩年作品で、東京から鹿児島までのバス旅がテーマ。収録作品の執筆時期に20年程度の差があり、初期作品は作者の行動力を背景に回想も交えながら生き生きと書かれている感じだが、後半になるに従い流石の作者も少し疲れたか日記、メモ調になっていく印象。作風ファンには面白い本だと思う。2021/01/04
たびねこ
13
飄々とした田中小実昌を凝縮したようなエッセイ。一見くだけているけれど精巧な文章、女好きのスケベのようでいて不思議と清潔、用事もなく路線バスを乗り継いでいるようだが、じつは哲学もしている。「旅の醍醐味は、心細い気持だろう」というあとがきもコミさんらしい。2021/10/02