内容説明
異郷に暮らし、過去の記憶に苛まれる4人の男たちの生と死。みずから故郷を去ったにせよ、歴史の暴力によって故郷を奪われたにせよ、移住の地に一見とけ込んで生活しているかに見える移民たちは、30年、40年、あるいは70年の長い期間をおいて、突然のようにみずから破滅の道をたどる……。語り手の〈私〉は、遺されたわずかの品々をよすがに、それら流謫の身となった人々の生涯をたどりなおす。〈私〉もまた、異郷に身をおいて久しい人だ。個人の名前を冠し、手記を引用し、写真を配した各篇はドキュメンタリーといった体裁をなしているが、どこまでが実で、どこまでが虚なのか、判然としない。
本書は、ゼーバルトが生涯に4つだけ書いた散文作品の2作目にあたる。英語版がスーザン・ソンタグの称讃を得て、各国語に翻訳され、ドイツではベルリン文学賞とボブロフスキー・メダル、ノルト文学賞を受賞した。
堀江敏幸氏による巻末の解説「蝶のように舞うぺシミスム」から引用する。「作家の極端なぺシミスムが読者にかけがえのない幸福をもたらすとは、いったいどういうことなのか? ゼーバルトの小説を読むたびに、私はそう自問せざるをえなくなる」。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
竹園和明
39
私は自分がこの国から追い出される、あるいは国を離れなければならなくなるなど、考えた事もない。もしそうなったら足元から全てを掬われる思いで不安と悲しみに押し潰されるだろう。4編とも内容を客観視したような淡々とした書き方なため、逆に悲哀がヒタヒタと寄ってくるようで読むのが辛くなる。心の根本、拠り所を失い自ら命を絶つこと以上に悲しく辛い事があるだろうか。読み終えてふと顔を上げたとき、非道な政治家らの顔が浮かび「ヤツらに天罰を」と思ってしまった。2020/06/20
そふぃあ
27
故郷から離れて生きざるをえなかった4人の人々の半生が、多数の写真を伴って語られる。 長い間思い出されない、忘れたとすら思う記憶が、人生のある時に、吹き出るように蘇ることがあるのだと思う。その記憶に絡め取られたとき、彼らは死・消滅に向かっていくのではないかと思う。 はじめ図書館で借りていたのだが、とても好きだと感じたので途中からは買って読んだ。 ウエルベックに似たペシミズムを覚える、哀しみと愛おしさのある小説だった。2022/02/21
ケイトKATE
27
移民とは、止むに止まれぬ動機から故郷を離れた人々である。ゼーバルトが書く移民たちは、戦争とホロコーストという人間が起こした人災によって、家族や大切な人を失ない、生き延びたことに罪の意識に終生苛まれ、悲劇的な最期を遂げた人たちである。ゼーバルトは、加害者の立場から移民たちの悲しみと苦悩に寄り添い、心の底に埋もれた言葉を汲み取った。私はその言葉に、ゆっくりと心に突き刺さりえぐられていった。2020/05/31
風に吹かれて
25
1992年刊。 生地を離れざるを得なかった四人の物語。四人とも「私」に関わりのあった人たち。たとえば二人目の「パウル・べライター」は小学校のときの担任。彼の父がいわゆる<二分の一ユダヤ人>であることから苦しみの多い日々を過ごさざるを得なかった。彼らのように移らざるを得なかった人々は心穏やかに過ごす場所を得ることが難しい…。 →2022/06/13
三柴ゆよし
25
だいぶ前に『アウステルリッツ』を読んだときには気付かなかったのだが、繊細さとあざとさのあいだを綱渡りするような書き方をする作家だと思う。あえて不意撃ちのようにバランスを崩して、読者にあッと思わせるパフォーマンスが巧みなのだ。本書の場合、各章に散りばめられた捕虫網を持った男のイメージがそれで、登場人物のひとりにナボコフの自伝(『記憶よ、語れ』)を読ませるのは、さすがにやりすぎだろうと笑ってしまうが、こういう「わかる人にはわかるでしょう?」的なスノッブな含みが、ゼーバルトにはある。方法としてのウザさというか。2020/08/22
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