内容説明
老いてなお盛んな画家の生きざまを描く。
「老齢の好色と言われているものこそ、残った命への抑圧の排除の願いであり、また命への賛歌である。無関係な人には醜悪に見える筈の、その老齢の好色が、神聖な生命の輝きをもって私の前方にまたたき、私を呼んだのだ。」
還暦を迎えようとしている画家が、友人の妻や姉、亡くなった妻の親友らと交わる様子を、ときには艶めかしく、ときにはユーモラスに描く。時代を感じさせない流れるような筆致で、“老いらくの性”を当たり前のものとして捉え直した傑作長編小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
スリルショー
1
伊藤整の作品を読むのはこれが初めてだが、小説としてのレトリックも技巧もされているのだろう、読みづらいところもあるが、この作家のかなりの教養のほどがうかがわれる。主人公の老人の画家が次々と女性遍歴を重ねながら、主人公と女性の心理、老人の性といものが残り少ない命への賛歌であるという考えが巧みに細部まで網の目のように書かれ、それに伴って老人の人生観も丁寧に書かれていて感心してしまう。老境に差しかかった人間の価値観を書き上げた傑作だと思う。2022/03/05
なおぱんだ
0
60歳となった画家の男が、親友で故人となった作家の文学碑の除幕式で再会した老女の面影に、若かりし頃の自己の女性との遍歴を回顧し、老境の自分が抱える異性への熱い情欲を描いた作品です。老いらくの恋よりももっと本能的な老人の性そのものに真正面から挑んだこの作品は、性そのものを対象としたいやらしさとは違った、人間の本質に迫る愛と性に対する確固とした視点を感じさせてくれます。2021/01/29