アウステルリッツ

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アウステルリッツ

  • ISBN:9784560097489

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内容説明

ウェールズの建築史家アウステルリッツは、帝国主義の遺物である駅舎、裁判所、要塞、病院、監獄の建物に興味をひかれ、ヨーロッパ諸都市を巡っている。そして、彼の話の聞き手であり、本書の語り手である〈私〉にむかって、博識を開陳する。それは近代における暴力と権力の歴史とも重なり合っていく。
歴史との対峙は、まぎれもなくアウステルリッツ自身の身にも起こっていた。彼は自分でもしかとわからない理由から、どこにいても、だれといても心の安らぎを得られなかった。彼も実は、戦禍により幼くして名前と故郷と言語を喪失した存在なのだ。自らの過去を探す旅を続けるアウステルリッツ。建物や風景を目にした瞬間に、フラッシュバックのようによみがえる、封印され、忘却された記憶……それは個人と歴史の深みへと降りていく旅だった……。
多くの写真を挿み、小説とも、エッセイとも、旅行記とも、回想録ともつかない、独自の世界が創造される。全米批評家協会賞、ハイネ賞、ブレーメン文学賞など多数受賞、「二十世紀が遺した最後の偉大な作家」による最高傑作。
多和田葉子氏の解説「異言語のメランコリー」を巻末に収録。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

こーた

233
ひとの住んできた歴史や感情はその土地その土地に宿っている、などと書くと怪しげなスピリチュアルか何かと勘違いされそうだが、土地を訪れることで生活の歴史をかんじる、ということはよくある。それらは木や石といった自然物ばかりでなく、建築にも宿る。ひとの情動の痕跡(ある種の怨念のいえなくもない)を、アウステルリッツの語りをとおして、なぞる。時間と空間を飛び越え、虚構との境目はあいまいで、聞き手の「私」の存在は消え、読み手のぼくらまでが消失し、本のなかに入っていくのか、描写が外へ飛び出してきたのか、わからなくなる。⇒2021/04/23

まふ

100
旅行中に「私」が知り合ったアウステルリッツは幼い頃プラハから亡命させられ、身分を隠したまま少年時代をウェールズで過ごす。彼は両親がナチスによって選別・虐殺されたことを知り自らのアイデンティティを求めて故郷を訪ね歩く。「私」はひたすら聞き役にまわり、彼の深い心の静かな叫びを聞く…。伝聞記であるためリアルな空気感は味わえないが、代わりに彼の写した写真がその想像力を埋め合わせてくれる。何とも不思議な読み心地である。このような「つくり」も小説には許される。是非は別として小説の可能性を認識した。G1000。2023/10/12

コットン

90
イベント『2021年、今年読んだ本はこれだ!』のkeiさんのお勧め本。私が写真と図と散文からなる流れるような人生のアウステルリッツという人の話を聞く物語。画と文の重層的想起を感じ、読み始める前は似たものとしてブルトンの『ナジャ』を連想したが、それよりも偶然性がないが、建築的ガジェットに溢れていると思う。クラシックには詳しくないので誤っているかもしれないがパヴェル・ハースの『弦楽オーケストラのための練習曲』に言及されていたので曲を聞くと正統派とは異なる寂しげな民族音楽風で見て聞く総合的芸術を目指していたかも2022/01/02

星落秋風五丈原

38
【ガーディアン必読1000冊】本当にこれ一見旅先エッセイみたいですね。地の文で“わたし”が続いたかと思えば突然「と、アウステルリッツは言った」となるので主語違ったんだ!と混乱。アウステルリッツという三大会戦の地と同じ名を持つ彼のルーツはやはりアウシュヴィッツなどナチスドイツのホロコーストにたどり着いた。2022/02/22

風に吹かれて

25
2001年刊。  2022年5月、国際高等難民弁務官事務所(UNHCR)はウクライナ避難民の増加により世界の難民が1億人を突破したと発表した。数年後か数十年後か、自分の両親はどうなっていたのかを知ろうとザック一つを背負ってアウステルリッツのように旅を続ける人が出てくるに違いない。アウステルリッツは建築史の専門家で戦争に関わる建築遺跡も詳細に研究してきた。1939年、両親は子供の命だけでも守ろうとアウステルリッツをプラハから出国させたのであったが……。 →2022/07/13

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